千歳空港へ向かう際にいつも通る道沿いにあり、中に入ったことはないが、病院の存在は知っていた。自宅から遠いこともあって事前の現地調査はせず、打合せは電話だけ。
平均年齢80歳の入院患者が対象で、懐メロを中心に演って欲しいという先方の希望。初めての場でもあり、冒険はせずに老人ホームむけのオーソドックスな構成で臨んだ。
50分弱で先方に到着。玄関ホール横にあるロビーが会場で、開演までには20分あったが、早くも患者さんが集まり始めていた。
予定では14時開始だったが、10分前に準備が整う。集まった患者さんは20名ほどで、全員が車椅子。サポートする職員さんも10名ほどいた。
そのまま待っていただくのも心苦しく、こちらから申し出て開始を10分早めてもらった。先方の希望通り、30分で11曲を歌う。
「憧れのハワイ航路」「バラが咲いた」「お富さん」「二輪草」「二人は若い」「高校三年生」「浜辺の歌」「旅の夜風」「瀬戸の花嫁」「月がとっても青いから」「青い山脈」
歌う前から漠然とした予感はあったが、聴き手が非常に大人しい。看護師さんを始めとする職員さんもこの種のライブに慣れていない様子で、場を作るのは困難を極めた。
聴き手参加型の曲である「お富さん」や「二人は若い」に対しても、場の反応はごくわずか。1曲毎の拍手も弱々しい。
何らかの病気を抱えている方々ばかりなので、あまり無理を求めることはできない。途中からは単純に聴いていただくことにポイントを移し、淡々と歌い進んだ。
それでも叙情性の強い「瀬戸の花嫁」で、聴き手が少し反応する気配を感じた。しかし、ライブはすでに終盤である。いかにも立ち上がりが遅い。
ラスト2曲はニギヤカ系の定番曲だったが、この日一番の盛り上がりだった。
終了後にちょっと余韻が残り、アンコールが出そうな雰囲気もあった。すると進行の方が、「もしリクエストがあれば、お応えいただけますか?」と尋ねてくる。
リクエストよりも短めのアンコールがこの場には相応しい気もしたが、ともかくも場から募ると、「曲名は分からないが…」と前置きし、出だしの部分を歌い始める一人の女性がいる。「お〜い、…さん」と。
一瞬「お〜い中村君」かと思ったが、微妙に違う。「お〜い、船方さん…」つまりは、三波春夫の「船方さんよ」である。曲は知っているが、あいにくレパートリーにない。必死に記憶をたどり、1番だけを無伴奏で歌ってさし上げる。とりあえず場は繕った。
延べ500回を越える弾き語り活動のなかで、病院で歌うのは今回を含めてわずかに4回目。いずれも苦戦した記憶しかなく、まだまだ手探りの段階といえる。終了間際にかすかな手応えも感じたが、さらなる経験値の積み重ねが必要のようだ。