それでも行ってみたいのは、歌っていて気分のいい場であることがひとつ。そして自己責任下での基本ルールさえ守れば、始めるのも終わるのも自由で、何時間歌い続けても構わないという自由気ままさが得難いからだ。
前回は途中でギターの弦が切れるというアクシデントに見舞われたので、今回は予備弦を持参した。前回と同じ12時に家を出て、13時過ぎに到着。車を停める駐車場も同じだ。
まず小樽在住のギタリスト、浜田隆史さんに挨拶。いつもの場所で淡々と弾いていたが、予告なしに訪れたので驚いていた。近況はツイッターで知っているが、直接会うのは2年ぶりくらいか。
小樽運河で20年路上ライブを続けているので、ギターを弾く姿には運河の風景に溶け込むような風格さえ漂っている。さすがだ。
前回と同じトイレ前で歌おうとしたら、この日は多くの方が店を出していて、前回は空いていたトイレの横にも絵葉書系の店が出ている。自己紹介して「ここで歌っていいですか?」と確認したら、目の前では困るので、少し北側にずれて欲しい、と言われた。
そこで5メートルほど北側に移動して機材を設営。目の前に階段代わりの傾斜路があり、通路がやや狭くなっている難しい場所だった。歩行の邪魔にならないよう、マイクスタンド等は背後の腰壁ギリギリに寄せ、南側に半身になって歌うことにした。
前回と同じ13時35分から歌い始める。家を出てから1時間35分後で、地下通りにはない問題がいくつかあるにせよ、歌い出す時間は格段にこちらのほうが短い。その一点に限っても、待つのが苦手な私向きの場だ。
この日は無風で気温も高く、現地の温度表示計は23.8度を示していた。歌うには絶好のはずが、ちょっと暑すぎた感じもする。ベストを脱ぐことも考えたが、この日は周囲のイメージに合わせたレトロ風な衣装にしたので、そのまま続行。
そのスタイルが周囲の風景に馴染んでいたのか、たくさんの人に運河を背景に写真を撮られた。チカホではあまり例のないことだ。
好天なので平日にも関わらず、人通りは多かった。しかし、賑わうのはレストランが集中してテラスも広く、眺めのいい南側の橋周辺。私の陣取る北側のトイレ周辺は、南から来た観光客が途中で引き返してしまうせいか集客的にはやや厳しい。だがここでは新参者なので、歌えるだけで充分シアワセである。
暑さにもめげず、15時までのおよそ1時間25分、休憩なしのノンストップで22曲を一気に歌う。ラスト3曲は場に敬意を払って小樽系の歌で締めた。
「五番街のマリーへ」「さよならの夏」「ケ・セラ・セラ」「恋心」「ビリーヴ」「恋はやさし野辺の花よ」「ボラーレ」「花の首飾り」「ジョニィへの伝言」「涙そうそう」「大空と大地の中で」「時代」「風来坊」「時の流れに身をまかせ」「空港」「万里の河」「野ばら」「空も飛べるはず」「ハナミズキ」「石狩挽歌」「おれの小樽」「小樽のひとよ」
前回の経験から、この場に相応しいイメージとして厳選した150曲を「小樽運河メニュー」として予め準備した。曲によって反応はさまざまだったが、この目論見はおおむね成功したように思える。
驚くべきことに、台湾からの旅行者と思しき若い女性が、オリジナルCDを2枚まとめて買ってくれた。「ビリーヴ」を最後までじっと聴いて投げ銭をくれたのも若い女性。この日はなぜか若い女性に縁があった。
「時の流れに身をまかせ」を歌っていると、目の前の傾斜路でかなりの人が立ち止まって聴いてくれた。終わると盛大な拍手。それまでMCなしでひたすら歌い続けていたが、思わず「ありがとうございます」と、頭を下げる。
チカホでは珍しくない光景だが、純粋な観光地である小樽運河では初めてのこと。「聴き手との交流」という面では、双方に大きな違いはないはずだ。要は歌い手の意識の問題だろう。
水分補給が足りなかったのか、1時間を経過したところで左手の指がつってきた。ガラス店を散策に行った妻との待合せが15時だったので、なんとかがんばって歌い続けた。
前回のような大きなトラブルはなかったが、夏に向かう今後も続けるとなると、暑さ対策は必須のようである。