2015年9月5日土曜日

全曲手拍子系という冒険

 怒涛の敬老ライブ月間の第1弾となるライブが近隣のグループホームであった。
 この施設で最初に歌ったのが10年前の春で、介護施設訪問活動を始めた初期の頃のこと。まだ何の組織にも所属してなく、活動の場を求めて案内状を持参し、「歌わせてください」と自ら営業開拓した。

 その後さまざまなNPO等に所属するようになってからも依頼は続き、多い年は年3回。昨年までの訪問累計数が実に24回で、年数でも回数でも群を抜く、長くて濃密な家族的おつき合いが続いている。
 ただ、訪問が度重なるにつれて、互いに慣れや緩みが出てしまい、ライブの進行は徐々に難しくなってゆく傾向にあった。利用者の入れ替わりがほとんどないグループホームという形態の問題もあっただろう。
 一昨年末にガンを患ったのを機に、事情を話して訪問数を年1回に減らしていただいたが、それでも昨年の秋祭りでは、まるで手応えのない不本意な出来で、一時は自信を喪失した。


 1年後の今年、これほどまで間隔があくのは初めてのこと。前回ライブの何がいけなかったのか、かなり前からレポを読み返すなどして詳細に分析を試みる。
 数年前から隣接するサ高住の利用者も参加するようになり、微妙に空気感が変わった。それまでは落ち着いた叙情系の歌が好まれる傾向にあったが、場はニギヤカ手拍子系の曲を求めているように思えた。

 そこで今年は方向性をガラリ変え、全曲を手拍子の出やすい曲調でまとめることを決意。それに合わせてギター奏法はノリの良いストローク調で統一する。
 屋外会場なので使うPAもパワーの弱い乾電池式はやめ、交流式のローランドCM-30を選択した。電源は交流式のポータブル電源を持参。屋外ステージ用に作った電子譜面シェードも、この日初めて使う。
 施設側のオープニングセレモニーなどあって、13時10分くらいから歌い始める。聴き手は例年より多く、地域住民も含めて60名ほどか。練りに練ったセットリストは以下の6曲。

「高原列車は行く」「東京音頭」「おかあさん(森昌子)」「お富さん」「高校三年生」「花笠音頭」


 この種のお祭り系の場では、特に運営側が手拍子で場を乗せたがる傾向にあって、この施設でもその例外ではない。特に1曲目はノリの良い曲を持ってくることが必須。今回はそれを6曲20分間通してやり通すという、大胆な試みだ。
 多少の不安もあったが、高齢者でも無理のないペースで手拍子が打てる曲を慎重に選んだこともあって、最後まで手拍子が途切れることはなかった。
 飲み物は出されていたが、まだ食べ物がテーブルに行き渡ってなかったことも味方した。(食事に忙しいと、手拍子が打てない)

 ほぼ思惑通りに運んで、時間通りに終了。ただちに撤収しようとしたら、職員さんから打合せにないアンコールが飛び出す。リクエストを募ると、入居者の方から「北国の春」をぜひに、との要望。
 歌いながら手応えがあったので、(もしやアンコール…)という感触は正直あった。この施設でのアンコール自体が実に久しぶりのこと。
 終了後、複数の方から同じ主旨の声をかけられた。声の透明感、少しも衰えてませんね、と。
 この日の声の調子は抜群というわけでもなく、ごく普通である。1年間の間隔があいたことによる新鮮さが、そんなふうに聴こえたのだろう。やはり飽きや慣れは怖い。自分の場合、同じ場で同じ聴き手に対しては、年1回が限度だ。

 とはいえ、叙情系バラードが皆無のセットリストで、声の透明感が…、という評価には当惑しつつも、ある種の自信にはなった。
 ジャンルが民謡であろうが演歌であろうが、はたまた歌謡曲であろうが、歌い手の歌唱次第で聴き手の耳には心地よく届く、ということか。歌い手としての「味」が出せるようになったのだとしたら嬉しいが。