先方が弾き語り系のボランティアをこれまで一度も頼んだことがなかった、という背景もあったと思う。増長していては痛い目にあう。
とはいえ、頼まれること自体は大変ありがたいので、「前回とは曲を重複させない」という、自らに課したノルマに従い、季節感や起承転結などにも配慮しつつ準備した。
急増する他のライブなどに忙殺され、構成が決まったのは実施日のわずか2日前。当日は午前中から30度を超える暑さで、会場に入ってみると扇風機はあったが、エアコンは入っていない。
歌う側も聴く側も大変な酷暑ライブだったが、予定は予定。「菊地さんの歌声で暑さを吹き飛ばしていただきましょう!」という冒頭挨拶と共に、14時ちょうどから開始。およそ40分で以下の14曲を歌った。(※は初披露)
「憧れのハワイ航路」「埴生の宿」「ブンガワン・ソロ」「瀬戸の花嫁」「高原列車は行く」「浜千鳥」「草原の輝き」「幸せなら手をたたこう※」「われは海の子※」「星影のワルツ」「東京ラプソディ」「りんごの木の下で」
「青い山脈(リクエスト)」「月がとっても青いから(アンコール)」
夏系の曲をズラリそろえたが、演歌系の曲が「星影のワルツ」くらいで、ややバタ臭い雰囲気になってしまった感じはする。
本来なら早めに手拍子系の曲を入れて場を乗せるのが常だが、前回「お富さん」「ソーラン節」を歌ってしまった。「お座敷小唄」は冬の歌だし、「炭坑節」は秋の歌。季節を問わずに歌える手拍子系の持ち歌が少ない。今後の課題だ。
(家に戻って落ち着いて考えてみたら、「皆の衆」が歌えたことに気づくが、時すでに遅し)
6曲目の「浜千鳥」は、例によってマイクなしで歩きながら歌うスタイル。今回も無難にまとめた。続く「草原の輝き」はアイドル系の曲で、こうした場では冒険だが、歌に合わせてフリをする方が複数登場し、意外な反応にびっくりした。決めつけずにやってみるものだ。
初披露の「幸せなら手をたたこう」は、「二人は若い」に似た聴き手参加型の歌。予想外に受けて、会場は大いに盛り上がった。この曲は今後使える。
同じく初披露の「われは海の子」を歌っていると、思いがけないことが起きた。近くにいた女性が「泣けるよ…」と、突然嗚咽し始めたのだ。ごく普通のメジャー調の唱歌で、いわゆる「聴かせる」歌でもない。もちろん(泣かせよう)などと狙ったわけではない。
一瞬何が起きたか分からず、正直動揺した。続く「星影のワルツ」こそが悲しい別れの曲で、飛ばしてしまうことも一瞬考えたが、どうにか崩れずに持ちこたえた。
あとで係の方に「なぜあの歌で…」と確かめたら、「菊地さんの声が泣ける」と、あの方は言っているんですよ、とのこと。つまり、曲調の暗い明るいは関係ないということになる。これに関しては多少の心当たりもあるが、まだ自分でもよくつかめていないので、今後の分析が必要だ。
初めてカズーを使ってラストに歌った「りんごの木の下で」は、こちらが意気込んだほどの反応はなく、やや拍子抜け。ただ、(いったい何が始まるんだ…)と、場を引きつける効果は充分にあった。
位置づけとしては、ハモニカやフットタンバリンに似ている。しょせんは飛び道具の部類で、忘れた頃にカンフル的に使ってこそ意味がありそうだ。
あれこれあって、いわゆる「意外に低い2度目の壁(2度目の依頼)」は無難にこなし、確かに喜んでいただいた。チカチカパフォーマンスで会得した暑さ対策も効果的で、最後までバテることはなかった。
退出時に「次回は秋にぜひお願いしますね」との話も飛び出したが、「はるかに高い3度目の壁」が実現するか否かは、神のみぞ知る領域の話なのである。