2013年7月8日月曜日

箱根家族会~後編

(前編からの続き)
 家族会2日目はレンタカーに分乗し、周辺の観光地巡りをすることになっていた。メンバーから強い要望はなく、芸術鑑賞系と景勝系の2つをざっと回ろうか、ということになる。
 家族が共に過ごすことが第一の目的で、どこで何をするかは大した問題ではないのだ。


 レンタカーは軽自動車2台を予約していたが、先方の都合でマーチ2台に差し換えとなる。6人が一度に乗れる大型車の選択もあったが、慣れぬ山道での運転ミスが怖く、回避。結果的としてこの判断は正しかったかもしれない。
 9時半に出発。ネット評価の高い「箱根彫刻の森美術館」に向かって1号線を西に走ったが、雨模様のせいか渋滞もなく、20分で目的の美術館に着く。

 整備の行き届いた立派な美術館で、ナンバーワン評価は伊達ではない。起伏のある敷地を変化に富んだ作品群が巧みに配置され、要所に屋内美術館が建っている。
 印象に残ったのはピカソ美術館の陶芸群。どれも手元に置いて置きたいような好きな作品だった。屋外では腐食する金属球「球体をもった球体」、巨大な女性像「ミス・ブラック・パワー」に惹きつけられた。


 およそ2時間近くも美術館にいて、時計は11時半を回った。「箱根のソバをぜび食べたい」という声があり、予め調べてあった仙石原湿原近くのソバ屋に向かうことに。

 この日借りたのは慣れぬオートマ車で、普段より一回り大きい普通車。一度も走ったことのない狭い山道の連続で、装備のカーナビを使うのもこの日が初めて。しかも周囲には深い霧が立ち込めていた。
 いかにも事故りそうな条件がそろっていたが、仮にそんなことが起これば、楽しい思い出が台なしになってしまう。カーナビのセットは助手席の長女に任せ、私は運転に全神経を注いだが、直後に予期せぬトラブルが起きてしまった。


 太い道にさしかかり、左折の案内で一時停止して右を見ると、霧の中からヘッドライトが近づく。緩い登り坂だったが、急ブレーキをかけたらなぜかエンジンが停止して動かない。
 オートマ車はエンストしないと思い込んでいたので、再度アクセルを踏んだが、やはり駄目。右から来た大型バスが停まって、急かすようにウインカーを点ける。どうやら私の車が邪魔らしい。

 長女がエンジンをリスタートさせろと言うが、指示通りに起動ボタンを長押しすると、スタート時のアナウンスが流れ、いよいよ車は完全停止した模様。長女はお手上げ状態で、後部座席の妻はハラハラするばかり。
 車がズルズル後退する気配を感じたので、咄嗟にサイドブレーキを引いて停めた。直後にレバーをパーキングに入れ、ブレーキを踏みながら再度起動ボタンを押してみると、ようやくエンジンがかかって脱出に成功。


 目的のソバ屋に到着し、長女がスマホで調べていたが、オートマ車でも条件次第ではエンストすることがあるとか。そうなるとブレーキも一切効かなくなるそうで、サイドブレーキで止めるしかすべがない。怖い話だ。
 マニュアル車でもアイスバーンで滑るとブレーキ制御不能になることがあるが、過去に何度かサイドブレーキで難を逃れたことがある。そんな経験が危ない場面で活きた。
 ソバ屋は仙石原湿原の正面にあったが、霧は次第に深くなり、わずかにススキの穂先が見えるのみ。午後のスケジュールを再度話し合ったが、美術館をさらに回るには時間が足りず、当初の予定通り反時計回りに芦ノ湖スカイラインに入り、箱根新道経由で箱根湯本駅に戻るという、渋滞リスクの少ないルートを選択した。


 芦ノ湖スカイラインは通る車もほとんどなく、視界10メートル前後の霧の海。晴れていれば左に芦の湖、右に富士山が見える絶好の展望のはずが、大変なアドベンチャードライブと化した。
 30キロ前後の低速で慎重に進み、どうにか走り抜ける。先頭は私で、後続が次男の運転する車、その後ろにも2台の車が続いていたが、これほど深い霧の道は過去に経験がない。

 箱根新道は大半が下りの自動車専用道路で、次第に霧も晴れてきて、あっという間に箱根湯本駅に到着。1号線の上りがひどい渋滞で、帰路の選択が正しかったことを知る。
 ロマンスカーの出発まで少し時間があったので、駅近くの画廊喫茶で反省会をかねてお茶。いろいろあったが、終わってみれば全て楽しい思い出である。家族の小さな歴史が、またひとつ積み重なった。