2012年1月25日水曜日

地下歩行空間での偶然

 平日だが、仕事の電話がほとんどない水曜日。都心であれこれ用事を済ませるついでに、札幌駅地下歩行空間で6度目のチカチカパフォーマンスを実施した。

 この日の会場は先月末にもやった北4条広場。ストリートライブ過去最高の集客数を記録した場だ。その集客がたまたま近くでやっていた古本市の波及効果によるフロックだったのか、さらには場と時間の求める歌が果たしてシャンソン&クラシック系なのかどうか、もう一度同じ条件下で確かめたくなった。


 前回のライブで休憩をはさんだ後半の集客がいまひとつだった反省をふまえ、今回は歌う場所を広場の奥ではなく、通路にかなり近い側壁に設定した。音の返りを考え、側壁を背にして左手に通路を見、正面にはJR札幌駅に通ずる出入口を望む位置である。
 通行人の視線を考慮し、パフォーマンス用看板はいつもとは反対側の左手通路近くに置いた。

 会場到着はいつもよりかなり遅い15時5分。事務局には開始が遅れることを事前にツイッターで連絡してある。
 この日も妻は仕事のため同伴せず、2度目の完全ソロステージである。寒いが外は平穏で機材運搬に大きな支障はなかったが、写真撮影を持参の簡易三脚でこなすのはまだ慣れない。セルフタイマーの時間調整や連続撮影機能を駆使し、何とか終わらせる。
 15時15分よりライブ開始。この日は2週間前に北大通広場で試し、いい感じだった休憩なしの1ステージ方式を再度採用。結果として65分で以下の19曲を歌った。

「サントワマミー」「雪が降る」「雪の降る街を」「菩提樹」「オーソレミオ」「想い出のソレンツァラ」「独り(オリジナル)」「ドミノ」「メガネを買う(オリジナル)」「水の中のナイフ」「わかっているよ」「詩人の魂」「さくらんぼの実る頃」「思い出のグリーングラス」「夢路より」「鱒」「あたらしき世界(オリジナル)」「夕凪ワルツ(オリジナル)」「恋はやさし野辺の花よ」


 前回のフォーク系構成のときより5曲増やしたが、喉も指も何とか最後までもった。ただ、暖かいフリースジャケットとマフラーというスタイルにも関わらず、会場は非常に寒かった。途中で指がかじかんでしまい、コードの押えがやや甘くなったり、アルペジオにもたついたりした。寒さはこの広場が最も厳しいように感じる。
 開始早々、6~7人の男子高校生が取り囲んだ。変なオヤジがストリートをやってるぜ、という興味津々の表情。まだ歌う前だったので、「シャンソンだよ」と声をかけて歌い始めたが、ちゃんと最後まで聴いてくれて拍手ももらった。開始が遅かったので、下校時間とぶつかったらしい。
 その後、聴き手はあまり増えず、3~4曲目あたりでは遠くの柱で一人だけ、といった寂しい状況である。やはり前回は古本市の恩恵だったか…と思いつつ、通りを行く人にむかって淡々と歌い続けた。

 出かける前は3曲ほどしか歌ってなく、ほぼぶっつけ本番。しかし、声はよく出た。日々の練習に手を抜かずに励めば、喉の調子はそれなりに維持できるものらしい。
 理由は分からないが、「オーソレミオ」あたりから急に人が増え始めた。どの広場でもそうだが、人は人を呼ぶ。曲によってバラつきはあったが、一時は20人近い聴き手で広場はあふれた。

 曲間で近寄ってきた中年婦人から「あなたの歌を以前にも聴きました」と突然言われた。昨年ある介護施設で聴いたという。最初は分からなかったが、途中で気づいたという。今回のライブはネットでも一切告知しなかったので、全くの偶然である。こんな不思議なことが起こる。
 数曲後、別の婦人から「建築士さんではないですか?」とこれまた突然問われた。私はネットであなたのブログを読んだことがある。毎日10曲練習していると書いてありました、という。先の方と同様、歌声に引かれて聴いているうち、気づいたという。こんな偶然が日に2度も大都市の地下空間で起きるとは。
 予期せぬことが続けざまに起こったので、MCなしで進めていた流れが急に普通のライブのようになった。以降、歌う曲を簡単に紹介しつつ進めた。
 終了後、「オーソレミオ」あたりからずっと聴き続けてくれた2人の中年女性(先の女性とは別人)としばしの歓談。「連絡先を」と請われ、名刺を差し出す。「心が洗われる歌声でした」と喜ばれた。
 あり得ないような偶然がまるで打ち合わせたように起きる空間。実に面白く、刺激的な場である。