最近、こうした経緯で読んだ本は「ハズレ」が多かったが、読後感は非常に爽やかで、久々に「本」を読んだ気分である。
一糸まとわぬ美女が目を閉じて佇む表紙カバーにまずドキリとさせられるが、実は主人公である「倉島泉」という女性の有り様を暗示しているように思える。("デルヴォー"という画家の作品)表紙カバーデザインや登場人物の名前は決して小説の飾りではない。
タイトルからも推測できるが、価値観の混迷する現代における、ある種の「寓話」「おとぎ話」のような小説である。興味深かったのは、「筆者」という人称で随時登場するライターによる、ノンフィクション取材小説のような形式をとっていること。
人物系図や鳥瞰間取り図等が豊富で、あまりのリアリティさに(実在の人物では?)と疑い、途中でネット検索してみたほど。しかし、あくまで架空の人物であった。
小説を貫くテーマが、「現代における真の幸福とは何か?」という、永遠に答えの出ないような壮大なものだ。しかし、作者はその答えを700枚余の頁で明快に示している。
おとぎ話のエンディングによくある、「いつまでもシアワセに暮らしましたとさ、めでたし」といった類いの価値観による幸福感ではもちろんなく、人を押しのけず、妬まず真っすぐに生き、ささやかな日々の充足感を慈しむ、そんな生き方暮らし方に裏打ちされた確かなものだ。
読んでどう感じるかは、読み手が人生で目指すものに大きく左右されそうな気がする。世の人々がみなこのような価値観でいるならば、この世は随分住みやすくなるに違いない。