登録しているボランティアNPO法人のサイト経由や、単純なネット検索によるものだが、過去の詳細なレポートや、YouTubeを中心とする音源等の情報公開により、頼みやすい雰囲気はあるらしい。
今回のライブには難しい条件がいくつかあった。まず、聴き手の層が下は20代から上は90代と、とんでもなく幅が広いこと。「グループホーム」「ディサービス」「障がい者施設」の3つを兼ね備えた都心の大規模施設からの依頼なので、そういうことになるらしい。
「どの世代にも受ける」という歌はそうないので、正月休暇で帰省中の息子の意見も聞き、選曲にはかなり頭を悩ませた。
当日になって、別の問題が発生した。数日前からの豪雪で雪かきに追われ、腰痛の持病を持つ体調が充分ではない。前日には町内会新年会が離れた公共施設であり、雪の中を歩いて苦手な宴会に4時間近くおつきあいする。
二次会のカラオケは固辞してすぐに家に戻り、ライブの準備をするはずが、空きっ腹にビールを飲み過ぎたせいか、そのまま夕食まで寝込んでしまい、歌の最終練習は夜半に15分ほどしかできなかった。
当日になっても雪は降り止まず、最終リハをする以前に、まず車庫前の雪かきを強いられた。道路の渋滞が予想されたので、予定よりかなり早く出かける必要があり、結局当日のリハも15分ほどで打ち切り。
先方には開始20分前に何とか到着したが、10階建ビルの2階にある施設には駐車場がなく、2ブロック離れたコイン駐車場から、重い荷物を3つ抱えて滑る道をトボトボ歩く。
ようやく着いた施設玄関には、厳重なセキュリティシステムがあって、簡単には入れない。インタホンを探しても見つからず、携帯は車の中に忘れてきた。途方に暮れていると、たまたま帰りがけの施設職員の方が通りかかって、声をかけてくれた。教えられた別の入口からようやく中に入る。やれやれ。
休む間もなく、ただちに機材をセット。寒い道を歩き、階段を何度も昇り降りしたせいで腰も腕もしびれて痛いが、泣き言はいってられない。ともかくも準備は予定5分前に終わり、ライブはぴったり12時30分に始まった。
聴き手は職員も含めて50名を超える。確かに年齢層は幅広く、しかも会場が横にだだっ広い。歌いながらの視線や身体の向きの変え方、音の広がり具合など、縦長よりはるかに難しい場だ。
さまざまなトラブルの影響を心配したが、ライブそのものは順調だった。工夫をこらした選曲も当たった。場がつかみきれないので、珍しく最初から「一月一日」「ウインターワンダーランド」の2曲をメドレーで歌ったが、どちらにも間髪を入れず手拍子が出た。
3曲目の「さくらさくら」で冷えきった指が少し動かず、一瞬あせったが、どうにか持ち直す。「上を向いて歩こう」で、会場を順に見回しながら歌っていたら、一瞬歌詞を見失った。横に広い場での難しさがここにある。
「ピクニック」とアンコールの「二人は若い」では、かけ声の部分を聴き手に完全に任せてみたが、大変ノリのいい方が数人いらして、上手に反応してくれた。その際、ギターストロークを一瞬止めた弊害で、流れに戻るのに多少もたついてしまった。
全体としては大きなキズではなかったが、前回ライブではうまくいっていた部分。直前のトラブルをここでも引きずっていたかもしれない。
いろいろあったが、結果としてみなさんには大変喜んでいただいた。フットタンバリンを要所に入れた効果か、終始拍手と歓声が絶えなかった。拍手は普通でない「さくらさくら」「宗谷岬」「いい日旅立ち」にまで、曲調に合わせた手拍子をそれぞれいただく。
予期せぬ難しい条件の中でも、大崩れせずにそれなりに場をまとめられたのは大きな成果だった。
「菊地さん、南こうせつに声質がとても似てますね。今度菊地さんの『夢一夜』をぜひ聴いてみたい」と、帰りがけに責任者のN子さんから唐突に言われた。この施設ではフォークもOKということで、カラオケ大会でもしばしば「かぐや姫」が飛び出すとか。次回のリクエストとしてありがたくお受けした。
昨年末の「白いブランコ」のリクエストでも感じたが、いよいよ介護施設でもフォークの時代到来のようである。