2011年10月31日月曜日

宙を漂うタマシイ

 仕事のスケジュールが詰まったり、何かの行事で早朝の起床を強いられたときなど、夕方あたりに猛烈な睡魔に襲われることがある。幸い、2階仕事部屋の隣には以前に息子が使っていた部屋があり、予備のベットが常時置いてある。
 ベットの上には、これまた常時毛布かタオルケットの準備が。つまり、「眠くなったらいつでも寝られる」という環境が整っているのだ。

 同じように、仕事部屋と同一空間の部屋の一隅には、これまた「思い立ったらいつでも歌える」ように、PAとマイクセット一式が準備してある。
 洋裁を仕事や趣味にしている方が、自宅の一室に常時ミシンや洋裁道具一式を出しっぱなしにしておき、「思い立ったらいつでも洋裁」という環境を整えているケースをたまに見るが、「眠い時に寝る」「イメージが湧いたら直ちに作業」という環境を整えておくのは、快適な生活をすすめるうえでの大事な要件かもしれない。


 で、その仮眠の話である。猛烈に眠いので、横になるとすぐに寝ついてしまい、その眠りは深い。眠るうちに陽が陰り、あたりが暗くなってしまうことも少なくない。
 小一時間眠るとだいたいは目覚めるが、この時、あたりは薄暗くなっていて、しかも眠っている場所がいつもとは違う。するといったいどうなるか。「自分の存在が一瞬消える」という、不可思議な現象がよく起きる。

 自分には名前があり、決まった屋号で長く続けている仕事もあり、家族もいる。世間一般のもろもろのシガラミに縛られている。その全部をひっくるめて自己のアイデンティティが形成されているのが普通のオトナだが、その一切が一瞬だが消える。「私は誰?ここはどこ?」といった感覚にしばし支配される。
 そんなバカな…、と妻に初めてこのことを打ち明けたとき、笑われた。私だけの特殊な現象かもしれない。
 しばらくあたりを見回してようやく、自分はいったい何者であったかを思い出す。それまでの時間はおそらく数十秒に過ぎないが、不安な感情はあまりなく、自分が宇宙のどこかに突き抜けたタマシイの塊になり、宙を漂ってるようなフワフワした感じである。
 幽体離脱という言葉があるが、それに近い感覚かもしれない。そんなとき、自分の魂は宇宙からやってきたのだな…、と妙に確信してしまう。
「我々はどこから来たのか、我々は何か、我々はどこへ行くのか」と、かのゴーギャンは絵で問いかけたが、その答えの片鱗が、もしかしてここにあるのかもしれない。