2011年10月29日土曜日

業務縮小案内

 70歳近い建築家の方が長年都心で運営していた設計事務所を閉鎖縮小し、職員も解雇。拠点を自宅に移した、との案内ハガキが先日届いた。「建築活動45年」と文面にあり、私が知り合ったのが15年ほど前のことだから、それは長い活動歴である。
 最盛期には3人の従業員を使っていたが、一人減り二人減りし、やがて私への仕事の依頼も途切れがちになり、久しぶりに届いたのがこうした業務縮小案内である。
「閉鎖」とは書かれていないので、あくまで業務縮小。細々とでも、設計事務所の事業は継続するようだ。

 どのような形態であれ、事業を継続し続けるのは至難の業だが、受注量が減ってきた場合、対応策としてまずとるのが積極策である営業拡大。時には異業種への参入で事業拡大を図ることもある。
 これが手詰まりに陥った場合、消極策だが非常に有効なのが経費節減対策(リストラ)で、従業員を使っている場合なら解雇するのが最も有効。次なる策は、事業の基点となる事務所を自宅の一角に移してしまうことだ。
 私は29年前の独立当初から、妻以外の従業員ナシ、事務所はずっと自宅内という究極のリストラ策をとってきたので、大きく儲けることもないが、大きく損なうこともない。隕石衝突後の地球で生き延びた小動物のように、ひっそり身軽に細々と生き延びてきた。

 はてさて、かの建築家の先輩は、今後奥様との長い自宅での生活に、どんな思いで立ち向かうのであろうか。妻と向き合うのっぴきならない生活の中、長い時間をかけて互いの折り合いのつけ方を自ら学んできた身にとっては、案内文の行間に漂う一抹の寂しさが、少しばかり気がかりなのであった。