2011年10月18日火曜日

願いの運玉

 先日の宮崎旅行の折、初日に息子が鵜戸神宮に案内してくれた。宮崎の代表的な観光地で、41年前の自転車旅行では台風の接近による悪天候と、国道沿いにはないという理由で見そびれていた。
 切り立った崖の洞窟を中心に、いくつかの社が祀られていて、いろいろな伝説、神話があるらしい。神社もさることながら、単純に奇岩が立ち並ぶ景勝を眺めるだけでも退屈しない。さすがに伝統ある地である。


 順路の一番奥に、「亀石」と呼ばれる亀の形をした巨岩が断崖の途中に突き出している。高い位置にある神社と海面の途中あたりに位置し、背中にあたる部分に小さな窪みがある。
 この窪みにむかって石を投げ、見事入ると願いが叶うという。観光地によくある伝承だが、売店で「運玉」と呼ばれる専用の石が5個100円で売られている。私はこの種の行為にあまり興味がないが、旅行の数日前にNHKテレビで事前情報を得ていた妻は、ぜひやってみたいという。
 20代で四国高松市に現場赴任した折も、屋島という観光地で「瓦投げ」という厄払いの儀式をやりたがったのも妻だった。妙に縁起を担ぐところがあるのだ。
 息子が気を利かせて2人分の運玉を買ってきたので、一緒にやってみた。男は左手、女は右手でやる決まりだという。チャンスは5回きり。私も妻もそれぞれ真剣に投げたが、窪み縁の惜しい場所にぶつかりはするが、1個も入ることはなかった。
 距離と落差があり、ターゲットが小さいので、そう簡単には入らない。隣で一心に投じていた若い男性が最後の一投を見事に入れ、(よし、入った!)と独り小さくつぶやいていたのが印象的だった。

 息子は最初のトライで、5個のうち1個が入ったという。お前はまだ若いから、願うことはたくさんあるだろうが、齢60歳を過ぎた私にはもう願うことも叶えたいこともあまりないから、別に入らなくてもよいのだよ、と半分強がりで言うと、横で妻が、「あら、私は健康を願いつつ投げたわよ」と言う。
 おう、確かにそれはまだ願いとしてありだな、と笑った。年と共に次第に欲が薄くなり、願いがささやかになってゆく自分を感じるが、きっとそれでよいのだ。