新年度2度目の地区センター図書館、本修繕ボランティアの活動日。
新年度からのルール変更に伴い、最初に「前回作業を終えた本」の棚から、自分のタグがついた本を取り出して修理状態を自ら点検する。
大きな問題はなかったが、対象4冊のうち、辞典の1冊に一部ボンド固定の甘い部分を見つけて再修復。軽微だったため2時間で乾き、その後「修理完了の本」の棚へと移動した。
分厚い小説は前回修理した箇所は直っていたが、別ページのノド部分に新たな剥離を確認。単なる見落としか、作業中に無理が働いて剥離に至った可能性もある。再度の修復を施し、「今回作業を終えた本」の棚へ移動した。やはり検本作業は必要のようだ。
12時まで作業し、再補修を含めて計5冊を処理。この日は12時から別室で懇親会の予定があり、継続メンバー5名と新メンバー2名の全員がそろった。
2階の料理室に移動すると、別スタッフ4名による昼食の準備がすでに整っていた。メニューは
お好み焼きサンドで、皿に並んだ具材から各自が好きなものを選び、2種類の食パンにはさんで焼いて食べるという趣向。
実は昨年6月にも同じ趣旨での「
おにぎり慰労会」なるものが実施された。コメの急騰が世間を騒がせていて、価格が比較的安定している食パンを主とした食事会は、時期的にもタイムリーだった。
参加者は昨年と同じく2つのボランティアメンバーが対象で、本修繕ボラから5名、読み聞かせボラから4名、両方をかねているボランティアが2名、スタッフ5名の計16名(女性14名、男性2名)である。
私はウィンナー、ゆで卵、マッシュポテトを具に選択。サラダや珈琲もあって美味しく食べたが、今回は食事後の余興で私が歌うことになっていて、食べ過ぎは禁物だった。
昨年の余興は読み聞かせボラによる紙芝居だったが、今年は予定がなく、私が「音楽ボランティア」として歌での協力を申し出た。
メール連絡が不十分で正式依頼が届いたのは当日の朝。昨年の慰労会終了後に(依頼しようか迷った)と係員から聞かされており、演る前提で準備だけはしていたので、戸惑いはない。
3日前に介護予防イベントで16曲歌ったばかりで、さすがに声に不安があった。翌日夕方まで喉を休め、試しに数曲歌ってみると声枯れはなく、演れそうだった。
予め車に積んでおいた機材は、本修繕作業終了後に料理室へ搬入し、片隅にセット済み。全員が一通り食べ終えた頃合いを見計らって、12時55分から歌い始めた。
負担を考慮し、最軽量の機材を準備。重いマイクスタンドは使わず、譜面台上部に自作の木製マイクブームと7インチタブレットの電子譜面ホルダを装着した。
この簡易手法はチカチカパフォーマンスの最終年度で試していて、不安はない。
PAはコンパクトで音はそれなりに響く「
ヤマハMS101-2」を使用し、アルミ製三脚に止めた。8年前に予備として買い、メインPA修理中に本番でも何度か使った。出力10Wで、音は乾電池式のローランドモバイルキューブよりも安定していることを前日に確かめてある。
マイクは正面の専用ジャックにつなぎ、エレアコのケーブルは背面のLINE入力に入れた。エフェクターは持参せず、リバーブなしの生音に近い感覚で歌うことに決める。
発声練習は機材搬入時に車の中でバタバタと実施。15分4曲の予定が、2度のアンコールなどあって、25分ほどで6曲を歌う。
「
22才の別れ」
3日前の介護予防イベントのリクエストで3票を獲得していたが、同じかぐや姫の「なごり雪」が4票を得て、惜しくも歌えなかった曲。好きな曲で、路上ライブでもしばしば歌った。
終了後に「あの曲、3日前に私がリクエストしました。聴けてよかったです」と、読み聞かせメンバーから喜ばれ、さらには本修繕メンバーの男性から、「あの曲と全く同じ実体験の思い出があって、泣けました」とも打ち明けられた。結果としてナイス選択だったらしい。
「
風がはこぶもの」(初披露)
数ヶ月前に本修繕メンバーのKさんから、ぜひ聴きたいとのリクエストを貰ったが、あいにくレパートリーにはない。歌はともかく、ギター伴奏が苦手とするスリーフィンガー必須の曲で、ずっと避けていた。
いい機会と考え、以降密かに練習を開始。Kさんも参加した介護予防イベントではリストになく、歌う機会がなかった。
今回ようやく歌えて、3連符×4のスリーフィンガーもまずまずの出来。Kさんは大喜びで一緒に歌ってくれた。もしや深い思い出でも?と思いきや、単にハンマーダルシマーで練習を始めた曲だったのがその理由。いずれコラボ演奏?とのハナシもあり。
「
翼をください」
3曲目は昭和歌謡にするつもりで、介護予防イベントで2票を得た「恋のしずく」を当初予定していた。
ところが開始前に係員のAさんから「リクエストは可能ですか?」との打診。別の場からのリクエストだけでなく、その場でもリクエストを募るべきか?と考え直して問いかけると、かのKさんからいきなり「翼をください」の要望。
ジャンル的にはフォークだが他に声もなく、ジャンルを超えた楽曲ともいえるため、素直に応じる。新しい電子譜面ソフトの操作にも慣れ、この日はどの曲も短時間で譜面を探し当てた。
「
あの素晴しい愛をもう一度」
2年前に同じ地区センターでのロビーコンサートで、見届けてくれた本修繕メンバーのHさんから、終了後にリクエストを貰っていた。
歌う前にMCでその経緯を告げると、本人はすっかり忘れていて、話すうちに思い出してくれた。求められない限り歌わない曲だが、シングアウトとしては向いている。
「
時代」
事前の係員Aさんとの申し合わせでは、4曲で終わりのはずだったが、終了の拍手がそのまま手拍子となって止まらない、という現象が発生。リードしているのが普段から共に作業をしている本修繕メンバーだったから、流れとしてはやむなし。
すると、静かに聴くだけだったHさんから、突然「時代」のリクエストが出る。「演れますか?」と問われたが、過去に何度も歌っている得意曲。
問題はラストとしては盛り上がりに欠ける、しんみりバラード系であること。しかしここでも素直に求めに応じた。
「
雨が空から降れば」
1曲追加で歌ったので、もうお役御免だろうと思いきや、場の雰囲気が微妙。(もっと聴きたい…)との気分に満ち満ちている。係員Aさんもそんな気分を察知していたが、場を取り仕切る責任もあって、板挟みになっている印象がした。
そこで私から「責任者として、Aさんのリクエストはいかが?」と提案。するとAさんから「
菊地さんが最も歌いたい曲を聴きたい」と、微妙な要望が出る。具体的な曲名ではなく、判断を歌い手に委ねて、場の収束をうながす意図を感じた。
何を歌うべきかしばし考えていると、「以前に六文銭の及川恒平さんの時計台コンサートを企画したと聞いてます。その時の曲はいかがですか?」とAさんから提案された。言われて気づいたが、人生の節目節目で歌っている名曲が確かにあった。
この曲が自分でも過去に覚えがないほど出来がよく、場は静まり返った。「時代」から続く聴き手の琴線に深く訴える曲調の流れもあったかもしれない。
歌い終わると、一瞬エアポケットに陥ったような、不思議な感覚が場に広がった。折しも外には細い雨が、まるでしつらえたように静かに降っている。熱くなった場を収めるには充分な演出で、居合わせた全員が得難い時間を共有していた。
この日は4月4度目となる過酷スケジュールのラストにも関わらず調子がよく、歌もギターも大きなミスなく演れた。
旅の疲れもようやく癒やされ、基本となる心身の状態がよかったせいもある。いろいろな条件が整っていた。
リバーブなしのPAは本当に久しぶりだったが、機器に大きく依存しないことで、新しい自分を見つけた気がする。機材が軽くなって、フットワークも向上する。今後の手法として、見直すべきかもしれない。