で、その話題。仕事の打合せから戻ったとたん、妻の友人のNさんから電話があった。私のライブにもよく来てくれる方で、取次ごうとすると妻にではなく、私に用があるという。我が家に来る途中、道に迷った高齢者につかまってしまい、身動きがとれないでいるらしい。
日頃から高齢者の扱いに慣れている私なら、何とか対応してくれるのではないか。近くの公園にいるので、いますぐ来て欲しい。電話の声は困り果てた様子。何かと世話になっていることもあり、すぐに車を飛ばした。
現地に着いていろいろ話を聞くが、相手の女性はすっかりうろたえてしまい、「トーサンが、トーサンが…」を連発するばかりで、まるで要領を得ない。
身なりが作業着姿なのに気づき、落着かせてゆっくり話を聞くと、どうも園芸業を営む夫の手伝いで見知らぬ土地に来て、相手先の客の親(さらなる高齢者らしい)を帰る家まで送り届けたのはいいが、戻るべき元の現場、つまり「トーサン」のいる場所が分からなくなってしまったようだ。
ここからが大変だった。名前や住所、電話番号までは分かるが、肝心の「トーサン」の携帯の番号を覚えていず、メモも持っていない。老夫婦二人暮しで、遠く離れた家には誰もいない。
地方に二人の子供がいるが、電話番号も住所もトーサンでないと分からない…。つまり、トーサンがいないとまるでお手上げ状態なのだが、その肝心のトーサンの居場所が分からないのだ。
もはや私たちの手には負えない。Nさんと二人で交番に連れていこうとするが、見知らぬ男の車に乗るのを警戒しているのか、頑として動こうとしない。
ねばり強く説得を続けるうち、パトカーならば乗ってもいいという。すかさず110番をして状況を説明すると、10分ほどでパトカーがやってきた。なぜか私の住所氏名と連絡先まで調べられ、ようやくその場を解放された。
自宅に戻って30分ほどして「無事にご主人と再会できました」との電話が警察からあった。予想通り、ご主人から警察に「捜索願い」が出されていたそう。
やがて高齢者の域に近づく私たち夫婦にとっても、とても人事ではない。
「あれは全部カーサンが」「トーサンに全部おまかせ」では、いずれ路頭に迷ってしまうよ。