2013年12月14日土曜日

晩年の心構え

 子供たちが自立して全員家を出て以来、私が家をあけたことは過去に一度しかなかった。9年前に新潟の家を設計する際に、打合せで一晩だけ留守にしたときがそれ。
 妻は基本的に独りで家にいることを好まない。当時もよく眠れぬ不安な一夜を過ごしたと聞く。新婚当時、高松に転勤になった際も神戸への社内旅行で一晩だけ家をあけたが、同じような不安にとらわれたらしい。

 若き日に40日間に及ぶ単独自転車放浪旅行を経験したこともあり、独りで暮らすことには慣れている。妻が3泊4日の旅行に出かけたことも過去にはあったが、元来が「独り上手」で孤独を愛する質。家事もそつなくこなすし、独りの夜も普段とそう変わりなく過ごす。


 実は12月上旬の3日に及ぶ入院は、私にとっても生涯初めての体験だったが、妻にとって初めての大きな試練でもあった。果たして妻がどのように3日間を過ごすのか、老後にむけてのちょっとしたシミュレーションでもあったのだ。
 普段は多くの家事を私が分担していることもあり、戸締まり以外に妻がそれをどの程度こなせるのか、はたまた誰もいない孤独な二晩をどう過ごすのか、入院中も自分の身体はさておき、そのことが時折頭をかすめた。
 退院後、仕事から妻が戻っていない家の中は、案外片づいていた。食器もきちんと洗ってあり、布団も畳んである。新聞もしまってある。唯一気になったのは、洗面台のわずかな汚れくらい。
(私は毎日寝る前に洗面台を手のひらで掃除する習慣がある)
 帰宅後に妻に確かめたら、独りの夕食もそう寂しくはなかったという。時を経て、妻の精神も随分とたくましくなったようだ。
 ただ、「独りだとお酒がすすむわね」とも妻は言った。普段は1杯しか飲まない水割りを、つい2杯飲んでしまったと。私が独り留守番しているときは、逆に早く酔ってしまい、普段より酒量が減ってしまうほどだが、このあたりに微妙な気質の違いがあるように思われる。

「これまであまり考えたことがなかったけど、万が一独り残されたときの心構えが、今回の入院で出来たわ」と妻は総括。私も手術や入院という、人生の晩年に備えた大きな体験ができた。災いも考え方ひとつで、プラス思考に変わる。