2012年6月25日月曜日

フェルマータシンガー

「フェルマータ」という音楽用語がある。楽譜の中に時折登場する、ドーム型テントの中に丸い荷物が入っているような記号だが、「音符や休符上の決められた長さを無視し、好きな長さまで延長する」という意味らしい。
 以前にソプラノ歌手の清水紫さんと一緒に練習した際、「菊地さん、ここはフェルマータで伴奏をお願い」と言われ、「フェルマータってなんでしたっけ?」と尋ねたら、親切に教えてくださった。

「好きな長さまで延長」とはいうが、実は「正規の音符の4倍」という目安があるらしい。しかし、実際の演奏ではこの数値にほとんど意味はなく、紫さんが言うには、指揮者がいる場合はその指示に従い、いない場合はメンバーの呼吸で、ソロの場合は自己のイメージで、ということらしい。
 その自由さ加減がいいなと思った。音楽の原点は自由さにあると私は考えている。楽譜をベースにはするが、細部は歌い手の裁量でやってよいはずだ。その象徴がこのフェルマータではないか。


 よく考えると、シャンソンではこのフェルマータが頻繁に用いられていて、リードしているのはたいてい歌い手。伴奏のピアノやアコーディオンはその呼吸に合わせるのが基本だ。
 私の場合シャンソンに限らず、特に叙情系のスローな曲では、唱歌やフォーク、クラシックなどでもこのフェルマータを多用している。歌詞の持つ世界を的確に聴き手に届けるには欠かせない手法で、譜面には(slow)と注釈を入れてあり、長さはその場の気分で直感的に決める。
 私は自ら「叙情派シンガー」としばしば名乗っているが、同時に技法的には「フェルマータシンガー」であるともいえよう。

 すでに閉店してしまったが、娘がかって通っていた芸術系高専のそばに「フェルマータ」という名の洒落たカフェがあり、PTAの仕事をしていた関係で、よく通った。いまは亡き経営者の方が店名に託したものが、何となく分かるような気がする。
 明日出演予定の地域FM放送の番組に関し、記しておきます。

・ラジオカロスサッポロ 78.1MHz
 AM11:00~11:55「森の時間~smiles」
(放送エリアは札幌市内全域です)
(番組内で復興支援ソング「花は咲く」を歌う予定です)