2009年8月29日土曜日

強者の文学

 ちょっと前に図書館から借りてきた「無趣味のすすめ」という、村上龍の本を読んだ。今年3月に出版されたばかりで、かなりの人気。売れているらしい。
 新聞広告のコピーにちょっと惹かれ、危うく買うところだったが、彼の著書には以前からあまり良い印象がなかったので、借りることにした。

 ネットで予約したが、順番待ちが100人を越す超人気ぶり。日本人はよほど「村上ふう」がお好きと見えるが、はっきりいって期待外れだった。
 38編からなるエッセイ集だが、文体が拍子抜けするほど類型的。「おや?」と一瞬思わせるのは、タイトルにある作品と、そのほか数点のみか。
 最も引っかかったのが、中程にある「品格と美学について」というエッセイで、「カネ以外の価値を、社会や個人が具体的に見つけた例はない」といった主旨の、経済的弱者を見下したかのような、キキズテナラヌ下りである。

 視点が強者。優しくない。彼はおそらく人生で負けたことがないのだろう。何ヶ月も待って借りてきたので後半もガマンして読んだが、私にとっては読む必要のない本だった。
 彼はいま、あの芥川賞の選考委員も務めていて、言葉の影響力は少なくないはず。この分じゃ、日本の文学はますます疲弊して行くことだろう。