2009年3月2日月曜日

カネとモノ

 昨年の話だが、我が家で一番大きい旅行用カバンが壊れてしまった。壊れたのは大事な持ち手の部分で、固定してある本体の生地が大きく破れ、器用な私でもさすがに修復不可能。相当の無理がかかったとみえる。(写真上左)
 カバンは壊した張本人の妻が代替品をすでに買った。残されたカバンは、普通は捨てる。しかし、いつものように(何かにリメイクできるのでは…)という思いが働き、半年近く押し入れにしまってあった。

 一方、独立開業直後に買ったショルダーバックの傷みが激しく、修理しながらだましだまし使っていたが、あちこちに穴が開いたり裂けたりし、もはやスクラップ同然。(写真上右)代替品を探して歩いたが、手頃なものはどれも1,000円以上する。
「暇はあるが、金はない」という身の上なので、いっそ壊れた旅行バックをリメイクし、このショルダーバックと同じ物を作ってやろうと考えた。


 大きさとしては充分なので、問題はどうデザインし、どう裁断するかだ。中央両側にファスナー式のポケットがあるので、これをそっくりそのまま新しいバックに活かそうと考えた。大きさは現状のバックが非常に使いやすいので、基本的には同じにする。

 大枠の方針が決まったので、まずは持ち手をていねいにバラし、裏返して裁断。固い底の部分は使えそうにないので、思いきって捨てた。
 縫い合わせは普通のミシンでやったが、生地がすべってうまく運針できない。裏側にセロテープを貼るとよいことが分かり、以降トントンと1時間ほどで写真下のようなバックが完成した。
 持ち手は付属のベルトを再利用する手段も考えられたが、幅が広過ぎて、樹脂製であるのが難点。結局ありあわせの布テープの両端に、ほつれ止めとしてカバンの生地を接着剤で貼り、ミシンで縫い合わせた。
 ショルダーバックは主に仕事の打合せ時に持参し、大量の図面を入れたり、重い壁材のサンプルを入れたりすることだった。構造がナンジャクでは持たないのだ。
 しかし、仕事量が減少し、デジタル納品が増えるに従い、最近はライブの備品入れでの用途が急増している。楽譜、譜面台、マイク、ケーブル…なんでも入る。

 暇にまかせて不要品を蘇らせたが、昭和30年代の庶民の暮しは、だいたいこうしたものだった。布でも毛糸でも、何度も何度も繰り返し使ったもの。
 いまでもモノが豊かではない国々では、このような生活だろう。カネがあると果てしなきモノへの欲望にしばられ、カネがないと知恵をしぼってモノを生み出す。なかなか粋な方程式である。