子供たちのご招待で、1泊2日の古希家族旅行に出かけた。行き先は札幌から300キロ離れた道南の函館。次男が在住していることもあり、8年前にも夫婦で訪れている。
今回は地元の次男がホテルやスケジュール等をコーディネート。長男夫婦が札幌からの移動を手配するという分担になり、私たちはそれに従っていればよいという楽な立場。
10年前の還暦では、私が中心になってモエレ沼ガラスのピラミッドでの家族ライブを企画運営したものだが、時が過ぎて年を重ねれば、家族内での役割も自然に変わる。
8年前と同様に、移動は車に決定。5人乗れるトヨタパッソを長男がレンタカーで借りた。
9時に自宅に迎えに来てくれるというので、以降の細かい移動スケジュールを組んだが、当日の7時半にメールがあって、孫娘の寝坊で到着が遅れるという。子連れの旅だから、大人の思惑通りには運ばない。
トイレや戸締まりを再確認し、出発できたのは9時45分。遅れは途中で調整することになる。
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道の駅あかいがわ |
子連れの長距離ドライブは、休憩やオヤツのとり方が重要と1年前の家族旅行で学んだ。1時間ごとに休憩するのが理想だが、場所の都合で多少のズレはある。
オヤツは孫娘の喜ぶキャラクター物を中心に、魔法瓶に詰めた大人用の珈琲を含めて、いろいろ準備した。
5号線から朝里川経由で走る。途中の山道は紅葉が見頃で、天候にも恵まれて絶好の行楽日和。最初の休憩は「
道の駅あかいがわ」で、ここまで1時間30分が経過。予定通りの走りだ。
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倶知安から冠雪の羊蹄山を望む |
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道の駅くろまつない |
15分休んで11時半に出発。途中の倶知安で再び5号線に合流し、1時間20分走って12時50分に「道の駅くろまつない」に着いた。
ここの名物は地元食材を使ったピザで、12種類あるメニューから目移りしつつ3種をチョイス。ドリンクはガラナを頼んで、遅めの昼食とした。
ピザが焼き上がるまでの間、孫娘用にジュースを見繕っていたら、売店に多数のアンパンマングッズあり。一番手前にあるグミの袋を孫娘が手に取り、「これ食べたい!」と主張する。
車には他のアンパンマン菓子が2種類用意してあった。母親が近くに見えず、ちょっと迷ったが、「じいちゃん特別提供」「いつ食べるかはママに聞いてから」と条件づきで買ってあげた。
14時に出発。最初の休憩や途中の走りで調整し、遅れを15分取り戻した。前回は230号線の中山峠経由で向かったので、黒松内から長万部へと抜ける道は初めて走る。
噴火湾が見えてくると、孫娘は「海だ、海だ!海で遊びたいな〜」と歌うように繰り返す。晴れてはいるが気温は低く、海遊びは来年の夏ね、と言い聞かせる。
途中から駒ヶ岳が見え始め、ゴールは間近。1時間40分走って、最後の休憩地「
道の駅YOU遊もり」に寄る。
昼食のピザをあまり食べなかった孫娘、公園での子守りにいつも買うアイス自動販売機を目ざとく見つける。そばから離れないので、1個買ってあげた。旅という非日常でもあり、祖父母の多少の甘さは許されるだろう。
旅程は函館で待機の次男に逐次メール連絡していたが、当初の湯の川温泉ホテル合流を、急きょ函館駅に変更することになった。
到着後の予定が函館山夜景見物で、ホテルに寄るよりも函館駅から直接向かうのが時間の無駄がないとの提案。チェックインは早めに次男にやってもらうことに。
16時50分に函館駅到着。10分詰めたが、当初予定よりも35分遅れた。あいにくロープウェイが点検のため運転休止中で、17時15分の函館山行きのバスに乗る。
30分で山頂に着く。秋に函館山に来るのは初めてだったが、寒さにも関わらず、大混雑。帰りの足が15分間隔のバスしかなく、数百人の行列がすでにできていた。
夏よりも空気が澄んでいて、夜景はことさら美しかったが、気がかりなのは子連れでの帰りの足。トイレを済ませている間に、長男と次男が早めにバス待ち行列に並ぶ。時計は18時を回っていて、ホテルの夕食時間も気になった。
到着が遅れる旨をホテルに連絡し、21時が夕食の終了時間と知る。行列人数とバス所要時間から、20時をホテル到着目標と考えたが、案外早く行列が進んで、18時40分のバスに乗れた。
大混雑のバス中で孫娘が飽きないよう、立ったまま歌ったり頬ずりしたりして遊んでいたら、目の前に座っていた中年婦人から話しかけられた。
しかし、これがなぜか英語。どうやら外国人観光客らしい。
「Where are you from?(どちらからお越しですか?)」と咄嗟に応ずると、「From Taiwan.(台湾です)」との応え。
「函館の印象はどうですか?」
「美しくて、食べ物もおいしいです」
「私たちは家族旅行で札幌から来ていて、息子の一人が函館に住んでいるんです」
「おや、私たちも家族で来ているんですよ。バスの奥に息子たちがいます」
「それはいいですね」
「子供さん可愛いですね。私の膝に座りませんか?」
(孫娘、はにかんで応じない)
「この子、とても恥ずかしがり屋なんです」
「そうだと思ってました」
などと、予期せぬ国際交流が混み合うバス中で繰り広げられた。孫娘は週一回のキッズ英語に通っているが、うながしても会話に加わる気配はない。英会話は技術ではなく、積極性が勝負。まずは経験を重ねることだ。
バスは市内に差し掛かっていて、客がじょじょに降り始めた。
「どこで降りられますか?」
「さあ…、息子が知ってます。ああ、来ました。ここですね」
「ではごきげんよう、よい旅を」
「あなたも、どうもありがとう」
久しぶりに英語で長く話したが、まだ忘れてなかった。
函館駅前で車に乗り換え、ホテル到着は19時半過ぎ。海岸近くに建つ
湯の川温泉平成館「海羊亭」が今宵の宿だった。
ただちに部屋に入ってコートを脱ぎ、荷物を置いて食堂へと直行。夕食はバイキング形式で、19時50分くらいから食べ始める。綱渡りだったが、どうにか間に合った。
ビールで乾杯し、ひたすら食べる。カニや刺身が食べ放題で、天ぷらはサクサク感が絶妙。どの食材も味付けがよく、充分に満足できた。
終了時刻の21時ぎりぎりまで食べ、部屋に移動すると、テーブルにケーキの箱と紙袋が並んでいる。古希記念の誕生ケーキとプレゼントで、紙袋の中は古希にちなんだ紫色のバンダナとニットカーディガンだった。
ろうそくに火を点け、みんなにお誕生日の歌で祝ってもらう。バンダナとカーディガンもぴったり似合っていた。子供たちの気遣いがありがたく、うれしい。
その後、交代で温泉に浸かったあと、夜食にケーキをいただく。とろけるような上品な味だった。
23時半くらいまでゆっくりして、ようやく就寝。部屋は20畳ほどもある大部屋で、以前は小宴会に使っていた特別室らしい。
まるでねらったように、部屋の名が「菊」。これも何かの巡り合わせだろうか。
明け方4時に孫娘の夜泣きで起こされた。日中に刺激的な出来事があると決まって夜泣きすると聞いていたが、これだったか。
夜泣きは断続的に続き、5時になってようやく静かになった。
その後7時まで寝て起きると、妻はすでに温泉に行ったようで部屋にいない。孫娘が起きないので、交代で温泉に行く。
大浴場は最上階の12階にあり、津軽海峡と函館の街並みが見渡せる。
「赤湯」という露天風呂があったが、寒そうなので入らなかった。あとで聞くと、土方歳三も入ったという希少な風呂らしい。惜しいことをした。
入浴後、館内を少し探索したあと、8時から朝食。昨夜と同じバイキング形式で、和洋のメニューが自由に選べる。妻と次男が和食中心で、他は洋食を選んだ。
野菜ジュースにヨーグルトバナナなど、普段の朝食と変わらないメニューがあってありがたい。思いがけず食がすすんで、パンを4種類もおかわりした。
9時40分にチェックアウト。滞在中ずっと部屋のキーを握りしめて離さなかった孫娘が、ちょっと名残惜しそう。
吹き抜けの開放的なロビーで家族記念写真を撮り、2台の車に分乗して
トラピスチヌ修道院へと向かう。私たち夫婦は8年前に訪れているが、まだ観ていない長男夫婦のたっての希望だった。
終日快晴だった前日と打って変わって、この日は予報通り朝から雨模様。全員傘の準備怠りなかった。
10時に到着したが、雨脚は次第に強くなってくる。歴史ある荘厳な雰囲気の修道院なので、雨もそれなりに似合っていたのが救い。
記念写真など交代で写し、30分ほどいて、昼食を食べに函館名所のハンバーガーショップ「
ラッキーピエロ峠下総本店」へと向かう。
ラッキーピエロは函館を中心に17店舗あるが、帰路の国道5号線沿いにあり、子供向きの店舗デザインが施されているというのが、次男の推薦理由。
ほぼ予定通りの11時25分に到着。入口にある大きなピエロ人形で孫娘の表情がパッと輝く。店内にも真っ赤な巨大椅子やハート型の椅子、赤い車、回転木馬や人形などあって、まるで遊園地のような造りになっている。
孫娘は食事そっちのけで大はしゃぎで、大人もオーダーするのを忘れ、しばしあちこちを散策して回った。11〜3月はテラスと屋外がイルミネーションで飾られるらしい。
12時近くになって少し混んできたので、食事を注文することにする。1番人気のチキンバーガーセットを中心に、チキンカレーやハンバーグ定食など、思い思いのオーダー。
朝食をたっぷり食べて間もなく、量が多いせいか、食べきれない人が続出。余った分は紙ナプキンやポリロール袋に詰めて持ち帰ることにした。
12時半くらいに店を出て、函館に戻る次男とはここでお別れ。後半の天気は崩れたが、まずまずの企画だったのでは?と労って別れた。
5号線を札幌に向けて走ったが、雨は一向に止みそうにない。大沼公園から高速に乗ることを提案したが、長男は一般道を行くというので任せた。
1時間走って八雲PA近くにあるカフェ「
エルフィン」に寄る。牧場直営で手作りアイスや牛乳が美味しいとの評判。入口に置いてある実寸大のウシが歓迎してくれた。
ラズベリーアイスや各種ソフトクリーム、コーヒー牛乳など頼んで、互いに少しずつ味見。どれも濃厚で美味しかったが、私の頼んだ「大人のチョコソフトクリーム」の評判がよかった。
長男のお嫁さんの実家が酪農業なので、運営手法など、興味津々の様子だった。
14時に出発。帰路は市内までの時間が短縮できる中山峠経由を提案したが、私たちを車で家まで送り届けると長男が強く主張し、結局前日走った道をそのまま戻ることになる。
雨は止む気配がなく、車は少ないが運転はしづらい。一気に2時間ほど走り、16時ころに「道の駅ニセコビュープラザ」で休憩し、熱い珈琲とラッキーピエロで残したハンバーガーでオヤツタイム。孫娘には地元産の飲むヨーグルトを買った。
30分ほどいて出発。あたりはすでに暗くなり始めた。札幌駅近くにあるレンタカー会社への返却は20時で、時間的にはギリギリ。
その後、前日にも寄った「
道の駅あかいがわ」で最後のトイレ休憩をとる。
雨と夜の闇で前日とは様子がすっかり変わり、妻は同じ道の駅とは気づかなかったという。しかし、孫娘は玄関前にある女の子の看板をしっかり覚えていた。小さいが、記憶力はすでに大人なみ。
17時40分くらいに出発。赤井川から小樽に抜ける毛無峠の難所で深い霧に遭遇し、時には視界が10mくらいの危険な状況。助手席の私がナビで次のカーブの様子を運転する息子に伝えつつ、どうにか事故なく乗り越えた。
5号線に戻ってからは順調で、19時5分に我が家に無事到着。急いで荷物を下ろし、長男一家とはここでお別れ。
まる2日無暖房の家は冷え切っていて、室温が15度台。暖房ボイラを最大にセットし、車で近くのはま寿司に行って簡単な夕食をとる。
途中、一人で車を返しに行った長男から「返却間に合いました!」とのメールが入る。いろいろあったが、つつがなく古希の家族イベントを終えた。旅程は少し厳しかったが、よい命の洗濯をさせてもらった。
今後の目標は?と問われると、喜寿だ傘寿だ、いやいやその前に金婚式があるではないかと、騒がしい。しかしここは控えめに「日々を無事に生き抜く」と言っておきたい。楽しいイベントがあるとすれば、それは健康な日々のあとに自然についてくるはずだ。