依頼のペースは施設によってさまざまだが、ちょっと珍しいパターンである。
今回で都合5回目となるので、大きな緊張もなく臨んだ。当初はニギヤカ系の曲を好む場だったが、8年の間に微妙に嗜好が変わり、このところ叙情系の曲を好む傾向に変化した。推測だが、入居者や職員の入れ替りが背景にあるように思える。
いつも同じように見えても、万物は常にゆっくりと動いている。
場の分類としては完全に「傾聴型」で、構成もそれに沿った形で対応した。14時半から施設側のイベントがまず始まり、その後の余興が私の担当。14時45分くらいから始め、先方の希望通り、およそ40分で12曲を歌った。
「憧れのハワイ航路」「瀬戸の花嫁」「花笠音頭」「ここに幸あり」「上を向いて歩こう」「知床旅情」「秋の童謡メドレー:夕焼け小焼け・紅葉・赤とんぼ」「丘を越えて」「川の流れのように」「古城」「旅の夜風」「東京ラプソディ」
セットは先日のお寺ライブ同様の切り口で、「参加型」の曲はほとんどない。「花笠音頭」は構成にメリハリをつける意図で前半に入れたが、手拍子等は全く誘導せず、「民謡は普通三味線や尺八の伴奏ですが、ギター弾き語りでも実は演れます。聴いてください」としか告知しなかった。
結果として一部の方から手拍子は出たが、あくまで自然発生的なもの。ノリのいい場なら必ず飛び出す「チョイチョイ」の合いの手は、さすがに出なかった。
手拍子やかけ声の誘導は一切しなかったが、曲によっては「ご存知の方は一緒に口ずさんでください」と歌う前に言い添えた。
この声かけに最も反応があったのは、秋の童謡メドレー。多くの人が共に歌ってくれた。童謡は久しぶりに歌ったが、傾聴型の場には向いている。
前半は静かだった場も、中盤過ぎから次第に乗ってきて、聴き手がじわじわと熱くなるのが歌っていて分かった。ラスト3曲ではそれが最高潮に達する。聴き手の気持ちを歌に集めるべく、歌いながら聴き手に目で語りかけるよう努めたので、その効果もあったと思う。
反面、歌詞から目を離しすぎて、コードの一部をミスタッチした曲があった。手慣れた曲なら暗譜しているが、普段あまり歌っていない曲は要注意である。
終了後、場にちょっと余韻が残ったが、この施設では時間厳守で、アンコールは一切ない取り決めがある。それでもわざわざ近くにやってきて、「よい歌をありがとうございます」と労ってくれた入居者の女性がいて、嬉しかった。
冒険はせず、施設の意向に沿う形で無難にまとめたが、それなりに収穫もあった。