2011年7月2日土曜日

媚びないシンガー

 先月中旬の「フォークうたごえまつり」に参加した際、「童神」を切々と歌う姿に琴線を揺さぶられた児玉梨奈さんのソロライブがあるというので、近隣のカフェに出かけた。
 車で25分ほどの場所だが、行くのはこれが2度目。私同様、以前は技術系の会社でエンジニアをやっていたマスターが脱サラし、奥様と二人で切り盛りしている店だ。
 入口には大きなウッドベースが陳列してある。飾り物かと思っていたら、ジャズバンドに所属しているマスター自身が弾くそうで、装飾と演奏楽器の両方をかねているようだ。
 ライブは16時からだったが、15名の予約で満席という会場は、開演が迫っても半分ほどしか埋まっていない。開演を少し遅らせるというので、セルフサービスの珈琲をカウンターに注ぎにいったら、「《フォークうたごえまつり》に出てましたよね」と、スタンバイを終えた児玉さんから話しかけられた。
 よく覚えてますねと感心していたら、ちゃんとラスト演奏まで見届けたそうである。実は途中で児玉さんに声をかけようかと迷ったが、初対面なのでためらって、今日のライブを聴きにきたのですと告げると、それはありがとうございますと喜んでくれた。


 席もほぼ埋まり、5分遅れでライブ開始。スローな曲から入り、徐々にテンションを上げて中盤あたりでロック系の曲で盛り上げる。すべてオリジナル曲だが、フラットピックによるストローク奏法が主体だ。
 MCの英語から入る全編英語歌詞の曲があり、これが「みんなで手拍子、握手しましょうよ~♪」といった内容。歌詞の通り、歌の途中で会場を回り、歌いながら聴き手と握手して回るという演出だ。PAなしなので、これが簡単にできる。
(ちなみに、彼女の英語はカンペキな発音で、只者ではない印象)

 一転してこの日唯一のアルペジオ奏法で、あの子守唄を歌う。メリハリの効いたうまい構成だ。相変わらず胸にこみあげてくる歌唱である。個人的には、こうしたバラード系のしっとりした歌をもっと聴きたい気がした。


 後半に差し掛かったとき、かなり遅れて入ってきた客がいた。あいにく児玉さんは歌の真っ最中。小さな店なので、ステージは入口の正面だ。しかし、あわてず騒がず、咄嗟に歌詞を「いらっしゃいませ~♪」と変更して歌い、その場をおさめた。
 その後、その方に珈琲を注いでサービス。ついでに、他の聴き手にも珈琲のお代わりを聞いて回っていた。(珈琲はお代わり自由)
 予期せぬことがライブではあり、それをいかにしてさばくかが、歌い手の大きな技量のひとつ。若いが、実に機転の効く方である。感心した。
 アンコールを含め、合計14曲を1時間20分余で休憩なしに一気に歌い切る。底知れぬパワーで、私にはとてもできない芸当だ。
「PAは使わない」「楽譜は見ない(譜面台は置いてあるが、ページは一切めくらず、見た様子はない)」「カポは全曲使わない」「愛だ恋だの歌はなく、大半が人生や生活の情景を歌った曲」「完全ノーメイク」「ステージ衣装は作務衣」「足元は下駄履き姿」等々、他にも驚かされることばかりだった。
 彼女のコアなファンの方がブログで「媚びないところが好き」と記していたが、言い得て妙である。

 ご本人は自身を「ノージャンルシンガー」だと宣言している。フォークだロックだと枠にはめられるのがイヤなのだろう。娘、いや孫のような世代の方だが、ジャンルにこだわらず、「叙情歌シンガー」と自らを名乗る私とどこか重なる気もする。