2011年7月17日日曜日

聴き手の涙

 今年1月にクラシック・シャンソン等の洋楽を中心に歌わせていただいた市内の有料老人ホームから再度の出演依頼があり、今日がその当日。今回は日本の歌を少し多めに、という新たな要望をもとにあれこれ準備した。
 場所は札幌の最南端で、幹線道路沿いではあるが、札幌の北端にある我が家からはとにかく遠い。ライブは12時開始だったが、プロ歌手の高橋真樹さんのライブで、「起きてから4時間以上経たないとまともな声は出ない」という話を最近聞き、休日だったが8時には起きて備えた。

 10時くらいから自宅でリハを始めたが、(介護施設系ライブの場合、リハのたぐいはまず不可能)このところの不順な天候のせいか、声の調子はいまひとつ。3曲目に歌う予定の「丘を越えて」の最高音部がうまく出ず、不安が募った。
 本番でも調子が悪ければ半音下げて歌おうと腹をくくり、ともかくも終了。すぐに機材一式を積んで家を出た。
 冬よりは10分ほど早く、およそ1時間で先方に到着。開始20分前だったが、前回と同じ場所に機材を早めにセットしてスタンバイした。
 予定ぴったりの午後12時からライブ開始。30分で10曲を歌った。内訳は日本の歌が6曲、洋楽が4曲。「震災以後、入居者の元気がない」という先方の要望から、明るめの曲を中心に構成した。

「高原列車は行く」「サンタルチア」「丘を越えて」「真珠貝の歌」「ここに幸あり」「お富さん」「瀬戸の花嫁」「カレンダー・ガール」「夏の思い出」「アニー・ローリー」


 前回同様、いや、前回以上に手応えのあるライブだった。歌詞カードは一切配らなかったが、多くの方々がいっしょに口ずさんでくださった。日本の歌と洋楽とのバランスも程良かったと思う。心配していた喉の調子は、いざ始めてみるとあまり気にならず、全曲いつものキーで歌った。
 ライブは昼食直後に行われたが、この施設は余興に対する強制はなく、興味がなければ自室に戻ってもよい、というルール。しかし、席を立つ姿は皆無だった。
(担当の方の話だと、他の余興では結構あるらしい。ボランティアもすでに選ばれる時代に差しかかっている)

 初披露は「サンタルチア」と「アニー・ローリー」。両方ともうまくおさまってくれた。2度目となる「カレンダー・ガール」は、今回唯一外した曲。オールディズなのでいけると思っていたが、前回のライブハウスのようには受けなかった。洋楽でも馴染み深い叙情系の曲ならOKだが、テンポの早い曲はこうした場では難しいことを悟った。
 施設系では初めて歌う「真珠貝の歌」では、歌に合わせてフラダンスの身振りをする方が数名いらして、予想通りの手応え。ハワイアンは意外に受けることを再認識した。今後レパートリーを増やしたい。
 7曲目に歌った「瀬戸の花嫁」は、過去に実績のある曲だったが、曲名を告げただけで場内から歓声が上がった。歌っている間も強い手応えを感じる。あとから施設長さんが、「あの歌で涙を流している方がいた」と教えてくれた。
「聴いていると昔のことが思い出され、自然に涙が流れてきた」とのことで、歌い手冥利につきる。

 先日の地域センターにおける震災支援ライブでも「北の旅人」で涙を流してくれた方がいた。「聴き手の心にそっと寄り添う」を当面の目標にしている私にとって、聴き手の涙はこの上ない評価である。
 昨年あたりから、いろいろな曲で泣かれることが急に増えてきた。今回の「瀬戸の花嫁」もそうだが、自分の感情に流されず、技巧に走らず、聴き手をねじ伏せようとせず、しかし媚びることもせず、そんな姿勢をうまく貫けたときに、聴き手は静かに涙を流してくれるような気がしている。
 頂きには限りがないが、もしかするとひとつの場所にたどり着けたのかもしれない。