2011年8月24日水曜日

「上を向いて歩こう」の謎

「上を向いて歩こう」の歌をライブでよく歌う。マニアックなライブハウス系イベント以外では、ほとんど場を選ばず、いわゆるハズレがない。数えてないが、今年もすでに数回歌った。
 先日、ふと思いついて元祖・坂本九の歌う「上を向いて歩こう」をあらためて聴いてみた。音源はYouTubeで簡単に見つかったが、冒頭でいきなりショックを受けた。これまで自分が歌っていたメロディと違う…。

 具体的には出だしの「上を向いて~♪」の「…いて」の箇所だ。音階で書くと、これまで私は「ソソラシソミレ~♪」と、「…いて」の部分を「…ミレ」と一音下げて歌ってきた。それが当たり前だと信じこんでいた。
 しかし、九ちゃんの歌を聴くと、明らかに「ソソラシソミミ~♪」である。「…いて」の部分を「…ミミ」と、下げずに歌っている。なぜだ!?
 気になって、YouTubeに星の数ほど存在する「上を向いて歩こう」の歌を、片っ端から聴いてみた。すると、カバー曲はプロもアマチュアも例外なくすべて前者、つまり私と同じ一音下げて歌う歌唱だった。
 あの徳永英明も岩崎宏美もしかり。何と、サントリーが東日本大震災被災地支援のためにCMで多数が歌った音源も、すべて一音下げて歌っていた。

 この事実を知って以来、練習では元祖・坂本九スタイルで目下歌っている。たかが一音の違いだが、合計8カ所も同じフレーズが繰り返し登場するので、歌の世界観が微妙に異なって感じるのは、私だけか。
 この曲はかなり暗い内容だと私は思っているが、元祖・坂本九版で歌うと、その暗さが少しは改善され、気持ちが前向きになれるような気がするのだ。もしそうなら、やはり本来のメロデイで歌うべきではないのか。
 問題は聴いている人が逆に、(メロディが違う…)と感じてしまわないか?という懸念。それほどこの亜流メロディは、深く日本人の心に浸透している。
 本来のメロディといつの間にか変わってしまった理由を調べてみたが、いまのところ全く不明。一音下げたほうが一般人には歌いやすく、いつしかそれが定着したのではないか、というのが私の推測。真相をご存知の方がいましたら、ぜひ教えてください。


さらなる謎解き》〜2014.7.30追記
 記事を書いてから3年が経過したが、同じ疑問を持たれた方が複数いたようで、この記事が検索されたり、別サイトにリンクされていることを知った。
 そこで再度調査を試みた。その結果である。

1)YouTube音源で調べると、ある音源では坂本九自身がフレーズによって「ソソラシソミレ~♪」と「ソソラシソミミ~♪」とを混在させて歌っている。それぞれに決まったルールはないように思える。

2)発売時のレコードと思われるYouTube音源を見つけたが、ここでは「上を向いて~♪」のみ「ソソラシソミレ~♪」と下げて歌っているように聞こえ、次の「歩こう〜♪」は「ソソラシソミミ~♪」と下げずに歌っているように聞こえる。
(ただし、間奏後奏の口笛はいずれも「ソソラシソミレ~♪」と下げている)

3)グーグルの画像検索で「上を向いて歩こう」「譜面」で調べると、表示される全楽譜が「上を向いて~歩こう♪」の2箇所とも「ソソラシソミレ~♪」と記されている。
 中には相当古い楽譜をスキャンしたものもあったので、元祖の楽譜は「ソソラシソミレ~♪」であったと思われる。
 以上により、本来の楽譜は全て「ソソラシソミレ~♪」であった可能性が高いが、坂本九本人が歌い込むなかで、自己流アレンジとして、「ソソラシソミミ~♪」と下げない歌唱法を、特に晩年は採用していたのではないだろうか。
 この推測が当たっているとすると、どちらで歌っても間違いとは言えない気がするが、少なくとも坂本九アレンジで歌う場合は、そのむねをMC等で聴き手に告知すべきではないだろうか。

 歌い手の立場としては、「ソソラシソミミ~♪」と下げない歌唱のほうがイメージの広がりを感じて、オシャレである気がする。すでに確かめようがないが、本人が晩年で自己アレンジした背景も、案外そのあたりにあるのかもしれない。