2008年7月8日火曜日

一億総モンスター

「モンスター・ペアレント」すなわち、学校に理不尽な要求をつきつける保護者の存在が一種の社会問題になっていて、今日の新聞を見たら、テレビの連続ドラマにまでなっている。
 一説によれば、保護者として両親の他に祖父母がからむ例も少なくなく、この場合は「モンスターじじ&ばば」と呼ぶそうで、こうなるとほとんどテレビゲームに登場する妖怪変化の世界である。
 実はこのモンスター・ペアレント、騒がれ始めたのは最近だが、私たち夫婦が子育ての真っ最中だった20年近く前から、間違いなく存在した。
 かって9年の長きにわたって地域のサッカー少年団指導に関わっていたので、私自身も何度かその「モンスター」の餌食となった覚えがある。一部はメインサイトにも記してあるが、およそ以下のような内容である。

・私の子をレギュラーにしろ。
・私の子は守備向きでない。フォワードにしろ。
・キャプテンは私の子以外にない。
・寒いので、今日の試合は中止にしろ。
・あの子は足が遅いので、使うな。

 これらはサッカーに関する具体例だけで、学校生活全般となると、いま問題になっている事例と大差ない内容だった。

 一見善良そうに見える親が突然モンスターと化す要因は、おそらくいまも昔も、「我が子可愛さの一途な思い」がその背景にある。
 可愛がっているうちはよいが、「集団の中での我が子」「集団の中での自分」という、社会生活を健全に営む上での大事な視点が欠落しているから、やがては我が子と自分しか見えなくなり、暴走する。それが他から見れば「モンスター」なのだ。

 経験的に、子供の教育に熱心な親ほどモンスター化する危険度は高い。その意味では、私たち夫婦なども立派な「モンスター予備軍」のはずだったが、幸いなことに私たちは、経済的にはそう豊かでない幼少期を互いに過ごした。そのことで、自然に「他を思いやる」という第三者的視点が育っていったように思う。貧しいことは必ずしも不幸なことばかりではないのだ。
 経済的不自由が昔ほどではなくなった昨今の豊かな日本では、この「生活の中で他を思いやる」という視点を自然に身につけることなど、至難の業だ。痛みを知らずに育った人間が、他の痛みを理解することは非常に難しい。
 この「モンスター現象」は、いまや学校社会の問題だけではない。たとえば妻の勤めるスーパーにも、間違いなく「モンスター客」がいると聞く。些細な商品のキズに難くせをつける問題客のことで、クレーム処理にかけつけた責任者が、何時間も客の前で土下座するシーンも少なくないらしい。
 売る側は「モンスター客」を恐れ、必要以上に商品や客に気を配る。クレーム処理対策費も含めて、それらの経費は回り回って商品コストとして消費者に還ってくる。

 実はこの「モンスター客」、私の関わる建築業界にもちゃんと生息するらしい。不況下で仕事の欲しい建設業者の弱みにつけこみ、無理難題をふっかける施主がいるという話を小耳にはさんだ。
 いまや末端の生活者を対象とするあらゆる業界と社会に、モンスターが深く静かに潜伏している。「一億総モンスター化」である。

 対策は限られている。モンスターバスターが登場して、化け物を退治してくれるのは、映画やゲームの世界だけの話。何とか時間を稼いで、スタコラ逃げ出すのが最良の策だが、逃げ出そうにも逃げ出せない宿命の方もいるだろう。
 いっそあなたも私も、徒党を組んでモンスター仲間に入っちゃいますか?