新型コロナウィルスを取り巻く状況が日を追うごとに悪化し、中国人を中心とする外国人観光客の多い北海道は、広がりの速さや範囲で全国でもトップクラス。外出や人の集まる場は極力控える方向に進んでいて、介護施設系ライブもその例外ではなさそうだった。
施設からは特に中止や延期の連絡はなく、不安になってこちらから確認すると、ぜひやってほしいとのこと。正直気は進まなかったが、約束は約束なのでこれが最後と自分に言い聞かせ、覚悟を決めて出かけることにする。
場所は市内南部の遠方。道は乾いていたが、45分かかって開始15分前に先方に着いた。
素早く機材を組んでスタンバイ。予定ちょうどの14時に開始となり、2度のアンコールを含め、45分で14曲を歌った。
「上を向いて歩こう」「おかあさん(森昌子)」「バラが咲いた」「蘇州夜曲」「高校三年生」「みかんの花咲く丘」「サン・トワ・マミー」「神田川」「夜霧よ今夜も有難う」「函館の女」「星影のワルツ」「東京ラプソディ」「月がとっても青いから(アンコール)」「サクラ咲く(オリジナル・リクエスト)」
過去のライブの手応えから、構成は微妙に変えた。
「幸せなら手をたたこう」→「高校三年生」
「仰げば尊し」→「みかんの花咲く丘」
「恋の町札幌」→「夜霧よ今夜も有難う」
「ケ・セラ・セラ」→「函館の女」
聴き手は20名強。過去3施設に比べて集まりはよかった。男性は6名ほどで、どの施設も男性の比率が比較的高いのが特徴だった。
職員さんはスタート時の開会宣言だけで姿を消し、ライブ中は入口のガラス戸越しに時折様子をうかがう程度。自分ひとりで場を取り仕切るという、難しい進行となった。
場の反応は今回が最も弱く、手拍子や共に歌う声はほぼない。苦心の構成も当たったかどうかの判断は難しく、歌い終えた後の拍手だけがそれなりに熱いので、それを励みに淡々と歌い継いだ。
ラスト前にリクエストを募ったが、特に声は挙がらない。それまでの空気からある程度予期はしていたので、そのまま歌い収めたが、終わっても誰も席を立とうとしない。
(これはセルフ・アンコールか…)と一瞬思ったとき、期せずして最前列の男性から「アンコール!」の声。地獄で仏とはこのこと。思わず「ありがとうございます」と頭を下げた。
アンコールが終わったころに担当のKさんが会場に現れ、「菊地さんのオリジナルがぜひ聴きたい」と言う。系列施設の打合せ会で昨年末のXmasライブが話題になり、オリジナルを歌ったことを知ったらしい。
あいにくニギヤカ系のオリジナルは持ち合せてなく、その時に歌った叙情色の強い「サクラ咲く」を再び歌ったが、皮肉なことにこれが最も受けた。
終了後に近寄って労ってくれる方が多数。担当のNさんとアンコールをくれた最前列の男性は、「いいオリジナルでしたね」と声をかけてくれた。
撤収して外に出ようとすると、中程に座っていた女性が玄関までやってきて、「オリジナルで思わず泣いてしまいました。亡くなった主人と聴きたかった。ありがとう」と涙目で言う。差し入れよ、とバッカスチョコを一箱握らせてくれた。
場をつかめていないと思い込んでいたが、ちゃんと届いていたようである。
〜サクラをみたよ 今年もみたよ
あなたとみたよ 二人でみたよ…(中略)
日々を清かに重ねてゆきたい
あのサクラの花のように…〜