2015年11月8日日曜日

懐かしい時間

 およそ4年ぶりに「歌う」ライブではなく、「聴く」ライブに参加した。歌い手は奇しくも4年前と同じフォーク歌手の及川恒平さん。前回は地区センターが会場だったが、今回の場は円山公園近くにあるカフェである。
 週半ばに、久しぶりに建築デザイン系の仕事が入ったが、資料は平面図のみ。立面図は週末までに入るはずだったが、待てど暮らせど連絡はない。どうやらスケジュールが変更になったようで、ポッカリ予定が空いた。

 あいにく真冬のような寒さで、朝の最低気温は零度を割った。日中も5度くらいまでしか上がらず、出かけるのがおっくうになりそうだったが、恒平さんからは8月にも別のライブのご案内をいただきながら、行きそびれていた。
 見えない何かに導かれるような気持ちになり、やはり出かけることにした。


 ガン療養中の身なので、心身への負担が多い夜のライブは、歌うのも聴くのも避けている。歌うほうはともかく、聴くほうのライブからしばし遠ざかっている大きな理由がこれだ。
 しかし、今回は開場が16時半で、開演が17時という早さ。夕食までには自宅に戻れそうなことも、参加を決めた大きな理由だった。

 地下鉄やJRだとかなりの時間がかかり、寒いこともあって、車で行くことにした。最寄りのスーパー駐車場に停め、徒歩5分ほどでカフエに到着。開演前に久しぶりに恒平さんにご挨拶。3年前のチカチカパフォーマンスにも来てくださっているので、大きな戸惑いはない。
 小じんまりしたお店で、客席は10数席ほど。前回の地区センターでは300人という多さだったが、今回は非常に家庭的な雰囲気である。
 座っていたら、突然中年の女性客から声をかけられた。お久しぶりです、お元気そうですね、いつもブログ拝見してますよ、と。
 どこか見覚えのある顔だったが、咄嗟に思い出せない。するとかの女性、以前に恒平さんの時計台コンサートでお世話になりましたと、信じ難いことを言う。それで思い出した。当時私が主催した及川恒平さんのソロコンサートに、関東からわざわざおいでいただいたHさんではないか。
 出身が北海道なので、用事があって来道。たまたまライブにもいらしたらしい。横にいる女性にも見覚えがあり、当時一緒にいらした市内在住のYさんだった。

 再開は実に11年ぶり。しかし、記憶にある柔らかな雰囲気は少しも変わっていない。
 最初の自宅コンサートで花と観葉植物をいただき、その一部がいまだに元気でいること。新居に移転する折に、住宅関連の相談をご依頼いただいたことなど、開演前の短い時間にあれこれとお話ししたが、恒平さんを仲立ちとした、実に不思議な偶然である。


 予定通りにライブが始まる。この日の切り口はすばり、「昭和歌謡」。恒平さんが数年前から昭和の懐かしい曲をライブに取り入れていて、一度それを直接聴いてみたかった。
 共演はボーカルの青木リエさんと、アコーディオン&ピアノのKibanaさん。ライブタイトルは「北海歌謡団・公演」である。

 進行順にセットリストを記すと、およそ以下の通り。
・第1部
《恒平さんソロ》
「雪(唱歌)」「ゆきのこねこ」「雪の降る町を※」「叱られて」
《Kibanaさんアコーディオンソロ》
「北帰行※」「銀色の道※」「雪山讃歌」「冬景色※」〜冬メドレー
「アムール川の波」「サーカスの唄」
《恒平さん、青木リエさん、Kibanaさん》
「紅屋の娘」「港が見える丘※」

・第2部
《恒平さんソロ》
「煌く星座」「戦友」「戦場はさびしい」
《恒平さん、青木リエさん》
「恋は優し野辺の花よ※」
《恒平さん、青木リエさん、Kibanaさん》
「蘇州夜曲※」「イエライシャン」「銀座カンカン娘※」「東京ブギウギ※(アンコール)」
 開演前にも恒平さんとお話ししたが、多くの歌が戦前か終戦直後のもの。私が漠然とイメージしていた「高校三年生」以降、つまりは昭和30年代後半以降の歌謡曲とはかなり異なる印象で、どちらかといえば、大正ロマンに近いイメージだった。
 参考までに、曲の末尾につけた「※」は、私のレパートリーにあった曲。ほとんど知らない曲も中にはあった。
 デビュー当時から安易に時流に乗ることを潔しとしないイメージが恒平さんにはあったので、ある種のブームである「昭和歌謡」に対する切り口も、自然にそんな方向になっている気がした。

 ライブではそう耳にすることがない歌が多く、古い世代にはとても懐かしく、新しい世代には逆に新鮮に映っただろう。3人の持ち味もそれぞれに発揮されていて、楽しめた。
 限りある時間のなかで、「会えるうちに会いたい人に会っておきたい」という単純な思いで足を運んだが、いろいろな意味で懐かしい時間を共有することができた。