2009年11月22日日曜日

寄り添う歌

 連休のまっただ中だが、昨夜も明け方まで仕事。しかし、今日は以前から依頼されていた、介護施設での訪問ライブがある。いつもより少し早めに起き、ギリギリまで仕事を続ける。
 ライブは14時過ぎからだが、市内でもかなり遠方なので、車で1時間近くかかる。時計をながめつつ、12時過ぎからリハを始めた。
 徹夜続きだが、ハーブティーやショウガ湯で調整したおかげで、喉の調子はまずまず。12時45分を過ぎて荷造りにかかり、軽い昼食を食べて1時過ぎに家を出た。
 ほぼ予定通り、14時少し前に先方に着く。すっかり顔なじみのホーム長さんが玄関前で待ち構えていて、顔を合わせるなり、
「菊地さんの還暦コンサート、実は始めから最後まで回廊の暗がりのなかで、ひっそりと見てたんです」と言う。一瞬なんのことかといぶかったが、事前に案内ハガキを出していたのを、すっかり忘れていた。
 声を全くかけてくれなかったのは、手ぶらでやってきたせいなのかもしれないが、
「歌い手にとって最大の贈り物は、ライブを聴きに足を運んでくれること」

 なのである。忙しいスケジュールを調整し、わざわざ見にきていただいたことがうれしく、ありがたかった。


 最初に11月の誕生会イベントが20分あり、14時20分からライブは始まったが、そんな事情から、体調の悪さを充分にカバーするほど、気持ちは乗った。
 今日歌ったのは、以下の12曲。(歌った順)

「高校三年生」「里の秋」「ペチカ」「丘を越えて」「バラが咲いた」「涙そうそう」「おかあさん」「蘇州夜曲」「二人は若い」「月の沙漠」「知床旅情」「りんごの木の下で」

 いつものように、MCは曲名紹介程度で、淡々と歌い継いだ。聴き手は職員の方々を含め、70名弱といったところ。
 隣接する厨房でかなりの作業音がし、曲調の静かな「里の秋」で、聴き手も歌い手もやや集中力を欠いた感じだった。体調が万全でないせいか、息が一部続かない歌詞もあったりした。
 ただ、「ペチカ」をシャンソン風にテンポを自在に変化させつつ歌い、これがいい感じに決まった。以降、よい流れでライブは進む。
 今日の課題は、「聴き手を力業で自分の側に引っぱりこむのではなく、聴き手の心に寄り添うように歌う」という、このところ取り組んでいるテーマを、介護施設でも確実にやってみること。勢い、選曲は多くがゆったりした叙情系の歌に集中した。
「明るく楽しくニギヤカに」というイメージからは遠のくが、今年の夏以降、この路線からはどんどん離れつつあり、還暦コンサート以降は完全に「寄り添い、忍び寄り系」のスタンスになっている。

 その方向性を確認するという意図があったが、聴き手の反応から察するに、最悪の体調ながらも、その目標はほぼ達成できたように思う。
 60歳という自分の年齢から考え、「叙情系」への流れは、ごく自然なものだろう。当面はその流れに身を任せてみる。

 叙情系、シャンソン系の両方のイメージを混ぜたような歌唱法で歌った、「バラが咲いた」は、特に強い反応があった。この歌の新境地を拓いたかもしれない。「聴き手の心の中に、小さなバラを咲かせたい」という主旨にも、ぴったりはまった。
 初披露の「蘇州夜曲」は直前まで歌うか否か迷ったが、妻の強い勧めで思い切って歌った。この日の流れに沿っていたこともあり、無理なく収まってくれた。この曲はどのような場でも歌える感じだ。

「月の沙漠」「りんごの木の下で」も初披露。どちらも当たった。「月の沙漠」は普通に歌うと暗くなりがちなので、「矢切の渡し」のイメージで歌曲風に朗々と歌った。この歌はたぶん私にむいている。
 時間の関係で、予定していたエース曲、「いい日旅立ち」が歌えずじまい。しかし、終了は予定ピタリの3時。何事も時間厳守は大事である。