2025年6月14日土曜日

漫画「火の鳥」を読破

 NHKで手塚治虫作のアニメ「火の鳥」の再放送が1月からあり、以前から関心があった全13作をようやく見届けた。
 初回放送は2004年。原作の全12編を5編に凝縮&再編成してハイビジョン放送したものだったが、当時はハイビジョン放送の受信設備を持ってなく、観ることができなかった。

 観終わると、原作を読みたくなった。アニメ作品は美しいが、原作の持つ息遣いのようなものを知りたかった。アニメ化されていない他7編の内容も気になる。
 これまでも映画やテレビドラマで知ってから原作を読みたくなり、図書館で借りた作品は数多い。
 調べると、文庫化された全作品(講談社)が市図書館にある。16冊に別れていて分厚いが、一度に3〜4冊を古い順に借りて読んだ。


 実は学生時代に卒論を指導してもらった教官(助手)が漫画「火の鳥」の大ファンだった。
 卒論が始まって数ヶ月経ったころ、「一杯やらないか?」とアパートの部屋に誘われた。一緒にやっていたT君とノコノコ出かけたら、本棚に「火の鳥」の載った漫画雑誌がズラリ並んでいて驚いた。
 聞けば初刊から欠かさず読んでいるという。「火の鳥」は1967〜1973年まで月間漫画雑誌「COM」に看板作品として連載されていて、教官の部屋を訪れたのが1972年だったから、時期的にも一致する。棚に並んでいたのは、おそらくこの「COM」だ。

 当時はまだ作品が連載中で、教官は「火の鳥」の持つ素晴らしさを、オンザロックを傾けつつ熱っぽく語っていたのを思い出す。
 その後「火の鳥」は掲載雑誌が2度にわたって休刊する不運にもめげず描き続けられ、1986年1月〜1988年2月まで野生時代に掲載の「太陽編」でいちおうの完結をみる。
 作者の手塚治虫が1989年2月に亡くなっているから、まさに死の直前まで書き綴られたライフワークといえる。

 一通り読んでみて感じたのは、「火の鳥」という絶対不死の宇宙神のような存在を軸にし、ビッグバンで宇宙が誕生して以来、脈動しつつ発展と衰退を繰り返す文明や宗教、生物の輪廻がテーマであること。編ごとに過去と未来を行ったり来たりし、ストーリーや登場人物が各編のどこかにつながっている構成でもそれがわかる。
 あまりに壮大過ぎてつかみどころがなさそうだが、「宇宙の始まりと終わり」だとか、「自分はどこからやってきて、どこに行くのか?」等々の哲学的疑問を抱く人には、魅力あふれる作品に違いない。
 読み方次第では、「人はこの世に生を受けて何をなすべきか?」という問いに対する、ひとつの答えにたどり着けるかもしれない。

 難しく考えずとも、独立した各編は単純な歴史物語&SF作品としても充分に楽しめる。
 手塚の描くヒロインは実に魅力的で、「黎明編」のヒナク、「羽衣編」のトキ、「望郷篇」のロミ、「太陽編」のヨドミ等々、読んでいて愛しさがこみあげる得難いキャラクターだ。
 アニメだけでは感じ取れない世界観を確かに見届けられた。