2025年3月3日月曜日

あってはならない

 地区センター図書館、本修繕ボランティア活動日である。9時半に到着すると、参加メンバー以外の見知らぬ姿があり、係員から「本修繕の見学者です」と数名を紹介される。どうやら新年度から増やすと聞いていた新メンバー対象の見学会らしい。
 現メンバーは10時までに全員そろったが、係員が4〜5名の見学者にかかりきりのため、不明部分は互いに相談しあって進めた。

 持ち越し作業はなく、修理棚の本はそう多くない。ノド部分(ページの谷間)のページ外れ補修を中心に続けていると、横に座るHさんから、難しい図鑑の補修方針について相談された。
 本文全体が表紙の背の部分から剥がれているが、表紙カバーが邪魔になってボンドが入りにくい。以前に似た補修をやったが、竹ひごにボンドを原液で塗り、表紙と本文の隙間に差し込んで塗った記憶がある。


 ただ、今回は程度が悪く、かなり広い範囲で作業する必要があった。強固に固めるにはボンドを薄めず塗るのが望ましいが、手間取るうちに乾いてしまう可能性もある。方針を話し合ううち、邪魔になっている表紙カバーをいったん取り外しては?と思い立った。
 調べると、透明ブックカバーの片側上下だけを切り離せば、表紙カバーは一時的に外せると判明。そうなるとボンド補修は簡単にやれる。外した透明ブックカバーはボンド乾燥後に貼り直せばよい。
 以前に綴じ糸が外れた本文の補修を、見返しの片側一部だけを切り離してやったことがあり、その応用だった。

 自分の作業に戻ると、数名の見学者が作業の様子を見せて欲しいと言ってきた。見られての作業はやりにくいが、説明しながら継続。
 ボンドを塗る道具が筆ではなく金属編み針で、しかもボンドは原液。私だけがやっている手法で、利点は多いがリスクもあり、最初はまず水で倍に薄めたボンドを筆で塗る基本を覚えるべき、と説明した。
 3年も続けていると、使っている道具も含めて自己流が多く、初心者向きではなかったかも。
 11時過ぎになり、指導していた係員のAさんが突然やってきて、「あってはならないことが起きてしまいました」と深刻な口ぶりで言う。いったい何事かとAさんが広げた絵本を見ると、オレンジ色のマーカーで大きないたずら書きが。
「足がきたない」「こんなことはありえない」等々、小学校低学年と思しき文字が全ページに書き殴ってある。いろいろな補修対象本を見てきたが、これほど悪質なのは初めてだった。公共性のかけらもない子供の心理や教育背景を推測すると、暗たんたる気分に陥った。
 程度が軽ければホワイトで修正したり、別の同じ本のコピーを貼ったりするが、今回は絵本。消せなければ廃棄するしかなく、Aさんがやってきたのも「明確な修理方針はないので、いい考えはないですか?」との相談だった。

 剥離液(シンナー)でこすってみたが、全く効果がなかったという。消しゴム系の道具も役立ちそうにない。ふと思いついたのが、メラミンスポンジ。自宅では浴室や洗面台、レンガタイルなどの汚れ落としに使っていて、しつこい汚れもよく落ちる。
 問題は効き目が強すぎることで、素材そのものを傷める可能性もあるが、試す価値はある。幸い地区センターに在庫があった。
 最初に試した剥離液では効果がなかったが、私がいつも使うのは単純な水。多めに含ませてこすると、あっけなく落ちた。推測だが、使ったのは水性系のマーカーだったのではないか。

 強くこすり過ぎると下の色まで抜けてしまうため加減が難しく、見学者には難しい作業だったが、水で濡れたページには白いコピー紙を挟んで乾燥させつつ、全ページの修正を無事に終えた。
 全くマニュアルにない補修でも、工夫次第でなんとかなる典型。その意味では、いい見学会になったと思う。