2025年3月26日水曜日

金婚旅.2《歩け、歩こう !》

「金婚旅.1」からの続き
 早朝から妻の起き出す気配で目覚めた。時計はまだ5:30で、7時からの朝食には早すぎるが、妻もよく眠れなかったらしい。2日続けて4時間余の睡眠時間で眠り足りないが、やむなく私も起きた。

「早く並ばないと、混むわよ」と妻が急かし、開始15分前に朝食の列に並ぶ。和洋のバイキングが自由に選べて、妻は和食中心、私は洋食をチョイスした。

旅行中トップレベルの朝食

 7:15から食べ始めると、客が続々と詰めかけてくる。この日は宿泊客が多く、広いホールにあふれるほど。外国人を含めた観光客のほか、作業服姿も目立つ。
 山火事に伴う消防や電気工事関連の緊急宿泊が急増したことを、あとで添乗員から聞く。早めに並んだ妻の判断は正解だった。

 ホテル前の集合時間は8:15。大きな荷物はバス内に持ち込めず、側面のトランクに夕方まで収納するため、小物類は手元にわけておく必要があった。適当なバックの準備がなく、つぶしの効くエコバックで代用する。

今治国際ホテル

 予定時刻通りに、この日最初の訪問地にむけて出発。
 前日に夕食をとった風のレストラン近辺から、全長約60kmのしまなみ海道に架かる10本の橋を経由して瀬戸内海を北に向かって縦断し、倉敷まで進むのが2日目の旅程である。

 まず最初に、3つの橋が連なる来島海峡大橋から渡り始めた。眼下に広がる瀬戸内海と島々を眺めつつ、亀老山展望台公園のある大島南ICで高速を降りる。そこから細い道をたどって8:50に山頂に着いた。
 隈研吾氏の設計によるパノラマ展望台ブリッジからは、通ってきたばかりの三連吊橋を始め、瀬戸内海の潮流や今治の街並みなどが広く見渡せ、しまなみ海道随一の絶景スポットと言われている。

亀老山展望台から臨む来島海峡大橋

 山を下って再びしまなみ海道に戻り、橋をいくつか渡って大三島ICで降り、道の駅多々羅しまなみ公園へと入る。実はここから歩いて多々羅大橋を渡るという、しまなみ海道ウォーキングのイベントが待ち受けているのだ。
 歩く距離は5km弱で、予想所要時間は1時間。普段あまり歩く習慣のない人には厳しい距離で、しかも橋は地面のはるか上にあるから、まず上に登ってから橋を渡りきり、今度は急な階段を降りるという苦行が続く。

 バスは一足先に橋を渡り、次の生口島南ICで降りて待っていてくれる。歩き通す自信のない人は、そのままバスに乗っていればよいとのこと。腰に不安のある私と膝に不安のある妻は、前日から判断に迫られていたが、直前の最終確認で「歩きます!」と宣言。
 実は旅の出発時から2人ともそれぞれコルセットを装着し、冷湿布やバンテリンでの予防措置も万全だった。そのせいか、前日は7,416歩という普段の倍近い歩数を無難にこなしている。
 天気もよく、風もない。せっかくの機会でもあるし、集団ならばなんとか歩けるはずと考えた。

多々羅大橋を渡り始めた直後

 道の駅多々羅しまなみ公園から傾斜路をたどって多々羅橋に出て、10時ちょうどから歩き始めた。
 添乗員を先頭とする元気のいいグループが先行し、私と妻は最終グループ数人でユルユルと歩く。

 歩道は半分が自転車道になっていて、自転車がひっきりなしに行き交う。多くは外国人で、すれ違いざまに挨拶を交わし合う習慣は、20代にやった自転車旅行と何ら変わりがない。


 橋を支える巨大な塔の真下では、「鳴き龍」という現象が2ヶ所で楽しめる。音がビンビンと響きながら上ってゆくもので、専用の拍子木まで置いてある。
 私も妻も試してみたが、確かに龍が鳴いた。どこかの寺にも似た現象があったはずだが、ここのは残響音が非常に長い。

「自信がない」と言っていた同年代女性とも互いに励まし合い、途中の県境も超えて、55分かけて無事にゴール。高齢者中心だったが、脱落者ゼロで乗り切った。


 生口島にある「しまなみロマン」という食堂&レンタサイクル店で昼食となる。

 この島のある瀬戸田町はレモン栽培に力を入れている。メニューの「海鮮丼」「瀬戸内レモンポーク」「たこ唐揚げ」「じゃこ天」「茶碗蒸し」「瀬戸田レモンスカッシュ」にも、ふんだんにレモンがあしらわれていて、そのどれもが抜群の味。長い距離を歩いた直後の身体を癒やすには絶好だった。


 食事後、1時間の自由時間となり、元気いっぱいのメンバーは平山郁夫美術館などの美術館めぐりを続けていた。
 私と妻に歩く元気はさすがになく、近くのローソンで珈琲を入手し、バス駐車場そばの土産物店でレモンケーキのお土産を買ったのち、レモン色のベンチに時間まで座り込んでいた。

 13:10に2日目の宿泊地、倉敷に向けて出発。疲れと寝不足もあって、14:30に到着するまで私も妻も座席でコンコンと眠り続け、途中にあった残りの橋や景色は全く記憶にない。

倉敷国際ホテル

 倉敷ではまず宿泊する「倉敷国際ホテル」にチェックイン。荷物を置いたのち、15時過ぎから周辺の「倉敷美観地区」を散策する。

 最初に旅行社が契約するオリジナルきびだんご店に行き、フルーツきびだんごを1本食べたが、歯の弱い私には粘りが強すぎて食べられなかった。オヤツの時間帯ではあったが、この企画は不要だったかも?


 そこから完全自由行動となり、町並保存地区をあてもなしにブラブラと歩き回る。
 ホテル裏には大原美術館があったが、50年前の新婚旅行ですでに観ており、入館料は各自負担ということで今回はパス。

 当時はなかった細い横丁や店が数多く並び、多くは知らない店だったが、50年前に行った「エル・グレコ」というカフェだけが未だ営業を続けており、記憶にある外観や看板もそのまま。妻と感慨深く眺め、長い月日の流れに思いを馳せた。


 閉店間際で中には入れず、建物前で写真だけを互いに撮ろうとしていたら、長身の若い女性が不意に私たちの前を横切ろうとし、スマホ撮影に気づいて「失礼!お撮りしましょうか?」と声をかけてくれた。
 三脚や自撮り棒は持参せず、あとで合成でもするつもりでいたが、ありがたく撮っていただくことに。

「50年ぶりの訪問なんです」と妻が礼を言うと、「それはよかったですね!」と頬笑み、女性は颯爽と去っていく。その姿、まるで私たちを写すために舞い降りた天使のように思えた。


 この日の夕食は各自でとるルールで、事前にネットで調べ、駅前にあるうどん店と決めていた。スマホのナビを頼りに細い脇道を散策しつつ、ゆっくりと向かう。
 古民家を改造した入場料無料の観光文化施設「倉敷物語館」では、藍色の組紐で手作りした携帯ストラップが売っている。妻のストラップが切れる寸前で、ささやかな金婚記念としてプレゼントした。

 途中、ネット検索でマークしておいた「倉敷プリン」の店を見つける。倉敷美観地区で人気のスイーツ店で、10種類近くのプリンから「抹茶と赤いダイヤ ¥500」を購入。
 店内に席はなく、屋外のベンチで食べたが、期待を裏切らない濃厚でまろやかな美味しさだった。


 17:30に駅前の「倉敷うどん ぶっかけふるいち仲店」に着く。多数あるメニューから、「天ぷらぶっかけ ¥830」を注文。歩き回って空腹で、スルリとお腹に収まった。

 ホテルに戻る途中、ローソンに寄ってビールとツマミを購入。ホテル帰着は18時すぎで、長い1日がようやく終わりを告げた。


 ホテルに温泉や大浴場はなく、客室内の浴室のみ。この日も軽く乾杯し、早々に床に着く。
 前日同様、簡単には寝つけないことを予想し、スマホで新聞や小説を読んで時間をつぶしていたら、22時になって急に睡魔がやってきて、ストンと眠りに落ちた。


 歩きに歩いたこの日の歩数は脅威の16,202歩。過去に記憶がない数字で、歩幅70センチ強として、実に12km近くも歩いたことになる。
 条件さえ整えば、まだまだやれるものだと、少し自信が持てた。

(2日目の歩数=16,202歩)(旅日記3日目に続く