1ヶ月くらい前にBSで見た「水の中のナイフ」というポランスキー監督の映画がどうにも気になり、ずっと消さずに残してあった。
まず、そのタイトルがいい。深夜の放送で、事前の予備知識は何もなかったが、タイトルに惹かれてなんとなくスイッチを入れた。すでに始まって10分ほど過ぎていたが、ぐいぐい引き込まれ、あわてて録画のスイッチも入れた。
ヨットの上という閉鎖空間で繰り広げられる恋愛心理ドラマだが、セットらしきものはヨット船内の撮影シーンくらいで、ほとんどはロケ。登場人物も中年夫婦と青年というたった3人だけだが、金をかけずとも面白い映画は作れるという典型か。
独特のデザイン感覚に裏打ちされたシンプルでダイナミックなモノクロ画像のカメラワークも息をのむ。全くのど素人を、監督自らが街でスカウトしてきたというヒロインが、なかなかセクシーで存在感がある。
集中的に見直したシーンは、ヨットの中でヒロインが歌う退廃的な歌の部分だ。単なる鼻歌の延長で、途中で「歌詞を忘れた」といって、やめてしまう不完全なもの。だが、その歌を何とか形にしてみたいとずっと思っていた。
そのままでは無理なので、歌詞とメロディのエキスを取り出し、一度バラバラにしたあと、自分のイメージにそってもう一度組み立て直し、足りない部分は補い、いらない部分は捨てる、という作業を何度も繰り返した。
住宅のリフォームのような難しい作業だったが、苦労のかいあって、何とか弾き語りで歌える曲に仕上がった。タイトルはもちろん、「水の中のナイフ」。
「水」は、おそらく怠惰に流されゆく日常を、「ナイフ」は、その中に潜む殺意に近い残酷な心理を象徴しているのではないか。
曲調はブルースとシャンソンを足して2で割ったような感じ。はっきりいって暗い曲だが、シャンソン系の曲は過去にも何度か作っていて、自分の肌にはよくなじむ。
考えてみれば、「枯葉」「雪が降る」「サントワマミー」など、シャンソンはおしなべて暗い曲調が多い。
「明るく、希望を持って生きてゆこう」なんて曲もいいけど、そういつも前向きばかりだと、息が詰まってしまう。人間ときには、どっぷりと後ろ向きの世界に浸りたくなるものさ。
問題は歌う機会があるかどうかで、歌詞とメロディの一部に映画の日本語訳を使っている関係で、ネット公開はまず無理。無難なのは、自宅コンサートでしょう。
だからもうこれ以上 私を見つめないで…♪