2023年8月4日金曜日

投稿の新境地

 5ヶ月ぶりの新聞投稿が採用になった。以前に比べて投稿意欲は下がっているが、今年は2本投稿していずれも採用。結果は悪くない。

 7〜8月は「夏の涼味」と題したテーマコーナーがあり、さまざまな投稿で賑わっていた。読み進むうち、新しいスタイルの投稿をふと思い立つ。よくあるエッセイふうや意見提言ではなく、掌編小説ふうの切り口で綴るのだ。おそらく過去に例はないが、うまくゆけば投稿の新境地を切り開ける。
 テーマは中2のときに同じクラスになり、急速に仲良くなったS君に関する思い出話だ。


 5人兄弟の長男だったS君は、家計を助けるために新聞配達をやっていた。日々を漫然と過ごすだけの私には、彼がすごくオトナで眩しく見えた。少しでも近づきたくて、夕刊の配達を手伝ったりした。
 夏になって「家に遊びに来いよ」と誘われた。喜んで行ってみると、S君は自分で木造住宅の屋根裏を改造し、個室にして使っていた。
 自分の部屋がないことを不満に思っていた私だったが、親をあてにせず、自力で軽々と問題を解決してしまう彼を心底すごいと思った。

「俺が稼いだ金で買ったんだ。遠慮しないで食え」と、S君はたくさんのお菓子と冷たい井戸水で作った粉末メロンソーダを並べてくれた。上にクリームも浮いている当時の人気商品で、欲しくても我が家では買ってもらえない。
 小さな弟や妹がテーブルを囲み、じっとお菓子を見つめている。(自分には食べる資格がない…)そう思い、「お腹空いてない」とウソを言って、メロンソーダだけ飲んだ。お菓子はあとで兄弟仲良く食べるだろう。それでいい。
 初めてのメロンソーダは美味しかった。S君がくれたかけがえのないごちそうだ。

 のちに私が新聞配達などのアルバイトを始めたり、欲しいものは自分で作り、あるいは稼いだ金で買うという発想にたどり着いたのは、S君の影響が大きい。青春期の友人は、ときに自分を育ててくれる。

 今回の投稿は、以前に150枚ほどの小説にまとめた一部分を切り取って再構成したもの。投稿なので創作は一切なく、すべて事実である。
400字という制限のなかでも、ひとつの世界は創れるはず》と試みたが、書き終えたあとの手応えはあった。評価されたことは喜ばしい。