2021年10月19日火曜日

糠平温泉旅行〜後編

(前編からの続き)
 朝6時に横で寝ていた妻の起きる気配で目覚めた。4時にトイレで一度起きたが、0時以降は孫娘の夜泣きもなく、ぐっすり寝られた。
 妻はただちに24時間利用可能の温泉に行き、6時半にはお嫁さんと孫娘が起きて温泉へ。入れ替わりに妻が戻ってきて、今度は長男が起きて温泉に向かう。私は長男が戻った7時15分に温泉に入った。

 7時40分から朝食。夕食同様に品数が多く、食べきれないほどだったが、旅は意外にエネルギーを使うもの。全員が完食した。


 温泉がすっかり気に入った孫娘、朝食後にも入りたがったが、大人たちはすでに退却モード。「また今度ね」となだめ、9時15分にチェックアウトとした。

 ロビーにある鹿の剥製前で家族写真を撮ってもらう。縫いぐるみだと思っていた鹿が、かっては生きていた本物と知り、孫娘はびっくりしていた。興味津々の様子で、剥製の作り方を詳しく教えてあげる。
「目玉はどうするの?」と重ねて尋ねるので、目だけはガラスで作るんだよと教えると納得していた。


 ホテルから糠平湖畔沿いの道路を北へ進む。廃線になった旧士幌線の跡地が残っていて、いくつかが観光名所になっている。
 目当ては東岸にあるタウシュベツ川橋梁で、朽ち果てたアーチ型のコンクリート橋梁と糠平湖との対比が美しい。時期によって湖の水位が上がって水没してしまうが、見られることを事前に確かめてあった。

晴れなら湖面の青との対比が美しいはず

 車では橋梁近くまで行けず、国道沿いの狭い駐車場に車を停めて原始林を通る細い道を展望台へと歩く。
 遊歩道入口に「10/6にこの付近でクマが目撃されました。充分ご注意ください」とあり、一同ビビりながら、なるべく大声で話しつつ進む。10分ほどで展望台に到着し、そこから対岸のタウシュベツ川橋梁が見渡せた。
 3人の家族連れが展望台にいて、互いに写真を撮りあう。途中の旧士幌線跡地でも写真を撮り、クマが怖いので早々に退去することに。

旧士幌線跡地

 時計は9時50分、ここから糠平温泉を通って鹿追町へと向かう。カーナビは距離優先で幌鹿峠経由を指示するが、昨夜の道はもう通りたくない。スルーして道幅が広くて安全な士幌町経由を選択した。

 273号線を南下していたら、道沿いに立派な道の駅を発見。時刻は10時30分で、宿を出てから1時間余が経過している。カーナビ情報やBプランにもなかったが、ここでトイレ休憩とした。


 この「道の駅かみしほろ」が1年前にできたばかりで、木をふんだんに使った斬新なデザイン。地元食材が中心のレストランやカフェ、売店などの施設が充実していて、すべてが新しくて清潔。敷地内には遊具つきの公園やドッグランまである。
 家族一同大感激し、カフェラテやソフトクリームなど、想定外の珈琲タイムとなった。孫娘は公園内のアスレチック遊具がお気に入りで、何度もトライしていた。


 お土産もここで調達し終え、11時過ぎに出発。1時間ほど走って12時20分に鹿追町の「ランチ&カフェえんじゅ」に入った。福原美術館内にある店で、美術館とは別の入口から自由に利用可能。
 美術館併設とあって、広い窓からは庭に並んだ美術品が一望できる。室内には絵画やステンドグラス作品が随所に展示され、高級感を醸し出している。



 メニューはパンやパスタの軽食系が中心。サンドイッチ、おろし和風ハンバーグ、ペペロンチーノなどのセットをそれぞれ注文する。孫娘用にマンゴーパフェも追加した。

 私はサンドイッチを選んだが、これまで食べたことのないような美味しさ。地元食材の旨さなのか、何らかの隠し味が入っていたのか、記憶に残る味だった。
 セットにはサラダ、デザート、ドリンクまでついてきてうれしい。ドリンクには全員が珈琲を注文。落ち着く店で、思いがけず長居した。


 13時20分に店を出て、数百メートル先の道の駅しかおいまで移動。一帯には町民ホールや公園、美術館が整備され、公園には植木を刈り込んで作られた動物が多数あるはずだったが、なぜか見当たらず、芝刈り機が忙しく行き交うだけ。

 孫娘を遊ばせるあてが外れ、ちょっと困って大人の希望者だけで行く予定だった神田日勝記念美術館に全員で入ることにした。
 入館前に5歳児でも入場可能か確認すると、大人が目を離さないという条件でOKが出る。観覧料は530円で高齢者割引はないが、未就学児は無料だった。
 神田日勝の作品は以前に道立近代美術館でも観ていて、好きな画家だった。2年前のNHK朝ドラ「なつぞら」にも登場し、欠かさず観た。鹿追の美術館にはぜひ行きたいと思っていたが、ようやく実現した。


 高い天井が特徴の館内に私たち以外の見学者はなく、静謐な空気に満ちている。重厚な馬やピカソを思わせる前衛的な絵、写実的な風景画など、時期に応じて多彩なタッチの作品が並ぶ。スポットを効果的に使った照明も巧みで、充分に堪能できた。

 お絵かきは大好きだが、本格的な美術館は初めての孫娘も、食い入るようにじっと眺めている。公園や遊園地遊びとは違う何かを感じ取ったようだった。
 我が子が幼い時期にも、よく美術館巡りをしたもの。そうした経験が心の栄養になっていると信じたい。


 1時間近くもいて、14時40分に鹿追町を出発。いよいよ旅も終わりに近づいてきた。最寄りの十勝清水ICから再び道東自動車道に乗り、札幌へと戻る。
 車中では相変わらず孫娘が「私は誰でしょう」を交代でやろうとせがむ。出題者が孫娘、お嫁さん、私で、解答者に妻や長男が時折乱入するというスタイルが1時間ほども続いたが、やがて疲れたのか後部座席の3人は順に眠ってしまった。

 運転する長男に睡魔がこないよう、助手席の私は眠らずに事業運営や所属サッカーチームのことなどを延々と話す。私同様に宮仕えから独立自営の道をたどったことで、息子も人間として一回り成長したことを、会話の端々から感じ取れた。


 予定通り17時15分に無事我が家へ到着。2時間半も休憩なしで突っ走ったせいで、全員が我が家でトイレ休憩となる。
 丸2日留守にした家は17度まで室温が下がっていて、温度設定を最大にして暖房ボイラに点火した。

 長男一家とはここでお別れ。「とても楽しかった。じいじ、美術館ありがとう。今度は…叔父さんも来れたらいいね」とまるで教えたように孫娘が言う。
 終始はしゃいでいた孫娘を筆頭に、家族全員が生きる喜びを確かめられた旅だったように思える。時期によって参加する家族は変わるが、元気でいるうちはこの種のイベントを極力続けたい。