2021年10月18日月曜日

糠平温泉旅行〜前編

 長男一家のご招待で、2年ぶりに家族旅行に出かけた。定番になりつつあった秋の家族旅行も、昨年はコロナ禍で中止。緊急事態宣言が解け、感染も下火になっている今年は再開のチャンスだった。

 移動は感染リスクの少ない車。我が家の軽自動車には全員が乗り切れず、長男がニッサンマーチをレンタルしてきた。
 移動費を含めた旅費を負担してもらうのは心苦しいが、10月が誕生月である私たち夫婦の誕生祝いも兼ねているという。今年開業したネット通販事業も順調らしく、素直に好意に甘えることにした。

途中に寄った竜仙峡の紅葉

 行き先は大雪山国立公園の一角にある糠平ぬかびら温泉。新形コロナ復興支援キャンペーンで、道民限定の宿泊割引があるという。
 3年前にも同じ大雪山国立公園内の層雲峡温泉に家族旅行したが、そのときは北の旭川経由で走った。上旬に旭川の三浦綾子記念館に行ったばかりということもあり、今回は南にある道東自動車道経由で向かうことにする。

 10時35分に長男一家の乗った車が迎えにきた。チャイルドシートがないというので、私の車から積み込む。
 予定より15分早く、10時45分に出発。天気予報は曇りで、快晴の秋空は期待できないが、まずまずのドライブ日和だった。


 レンタカー搭載のカーナビに従い、南東へと進む。274号線を順調に走って、11時55分に長沼町の「マオイの丘公園道の駅」に到着。2階のレストラン美夕で昼食とした。
 私とお嫁さんは「ながぬまTKG」という豚汁つき卵かけご飯を、妻はあんかけ焼きそば、長男はジンギスカン定食、孫娘はキッズオムライスと思い思いのメニューを選んだ。


 予定より早く12時50分に出発。事前に作った旅行スケジュールでは、ここから高速に乗って一気に東へ走るつもりだったが、時間に余裕がある。Bプランとしてリストアップしてあった途中の竜仙峡に寄り、紅葉見物をすることに。

 30分ほどで竜仙峡近くの滝の上公園に着く。3年前の家族旅行の帰りに初めて行って、紅葉が見事だった。今回も紅葉がピークで、あちこちを散策。
 歩き疲れて公園内の東屋で一休みし、孫娘が手伝ったという手作りカボチャクッキーと持参の珈琲でオヤツタイムとした。




 14時くらいに出発し、近くの夕張ICから高速に乗る。道東自動車道は初めて走ったが、道央から道東へ日高山脈を貫いているので、途中に多くのトンネルが連続する。
 普段とは違う景色に孫娘は大喜び。スタート直後はいやがっていたシートベルトにもじょじょに慣れ、大きな成長を感じた。

 トンネルに飽きると「じいじ、《私は誰でしょう?》やろう!」と誘ってくる。
「私は野菜です」「緑色ですか?」「上半分だけ緑です」などと、各自がイメージした物を質問形式で当てるというなぞなぞゲームだが、道具不要の言葉遊びなのでドライブには最適。台本がなく難しいが、求められるままに延々つきあった。
 3年前の家族旅行から、運転はすべて長男が担当している。免許取得直後は物損事故をしばしば起こしていたが、最近は安価なレンタカーサービスを利用し、よく家族で出かけるという。運転に不安はなく、私は助手席で楽なナビ役に専念できる。
 道沿いには場所に応じて趣の異なる紅葉が随所に広がっている。標高の上がったトマム付近では、前日降った雪による樹氷と、その下に広がる紅葉とが絶妙なコントラストだった。

 1時間半走って、15時半に途中の十勝平原SAでトイレ休憩。成長したとはいえ、孫娘はまだ5歳。定期的な休憩は欠かせない。

 小さなSAでトイレと充電スタンド以外の施設はなく、自販機には温かい飲物が見当たらない。屋台が2店あり、落としたての珈琲2杯とフライドポテトを買ったら、大喜びする孫娘を見て店主がコロッケ2パックを無料でくれた。店じまいする直前で、廃棄する予定だったという。
 百合根とゴボウという珍しいコロッケで、車中で珈琲と共に美味しく食べた。いわば2度目の珈琲タイムだが、食べることは旅の大きな楽しみのひとつだった。


 屋台の店主から下り線で事故があったはずと知らされた。ひとまず走り始めたら、5分ほどで確かに事故で通行止め。予定では音更帯広ICで下りるはずが、10キロほど手前の芽室ICで下ろされた。
 やむなくカーナビを頼りに一般道を走る。明日の帰路に通るはずの鹿追町を経由し、新婚時代に立ち寄った懐かしい然別湖畔を通って、然別川沿いの幌鹿峠(パールスカイライン)の山道をひたすら上る。
 日は落ちてあたりは闇に包まれ、細い道には外灯もなく、崖下側にはガードレールすら見当たらない。場所によってはすれ違いも難しいほど道幅が狭く、ヘアピンカーブの連続で、生きた心地がしない。
 家族旅行で事故などあってはならず、山道に不慣れなお嫁さんは悲鳴をあげるが、幸いに霧や雨はなく、見通しは悪くない。
 行き交う車は皆無で、カーナビで進行先のカーブを予測しながら慎重に進み、30分ほどでようやく峠を超えて温泉街の灯りが見えたときは、家族一同安堵の胸をなでおろした。


 寄り道や予期せぬ通行止めなどあって、ホテル到着は予定より1時間遅れの17時20分。あたりはすっかり暗くなっていて、チェックイン後ただちに大浴場へとむかう。

 宿泊はキャンペーン対象の糠平温泉ホテル。100年近い歴史のある老舗で、建物や設備は古いが、かけ流し温泉の質はよく、冷えた体がホカホカ温まる。
 温泉でもコロナ感染する例があると聞き、客は少なかったが、用心して入浴中もマスク姿を通した。いわゆる「黙浴」である。


 19時30分から食堂で夕食。私たち以外の宿泊客は2組4名のみで、空いている。
 乾杯で誕生日を祝ってもらい、並んだごちそうをいただいたが、バイキング形式でないこともあって、落ち着いて食べられた。
 地元で採れた山菜を中心に、たくさんの料理が並ぶ。味つけはどれも抜群で、美味しく食べた。
 1時間ほどで食事を終え、13畳大の部屋に戻る。布団は孫娘を含めて5組敷いてくれた。
 古い旅館タイプのホテルで、遊戯施設や売店の類いは一切ないが、無料Wi-Fiはあって、ネットやテレビで思い思いに過ごす。


 22時くらいに床についたが、昼間からずっと興奮状態の孫娘が寝ようとしない。廊下は寒かったが20度に設定したFF暖房機がじょじょに効き始め、暑くてなかなか寝つけない。

 23時くらいに暗闇の中を携帯を頼りに、窓際まで暖房機温度を下げに行った。ついでに前室に続く引戸を少し開放。部屋が冷えてきて、うつらうつらし始めたとたん、今度は孫娘の咳で起こされる。妻やお嫁さんも起きて、3人で対処。暑すぎて布団を飛び出していたようだ。
 続けて部屋にある電気ポットが突然沸騰し、激しい音をたて始める。再び携帯を頼りに対処。2度試みて、なんとか停止に成功。その後ほどよい室温と静寂が訪れ、全員がようやく眠りについた。
(後編に続く)