2007年10月26日金曜日

跡を継ぐ

 先月、東京で商品デザイナーをやっている娘からメールがあり、自分でデザインのすべてを取り仕切った電子レンジが無事商品となり、店頭に並んでいるという。
 すでにメーカーサイトの新商品コーナーにも掲載されていて、さっそく見たが、モノトーン調のシンプルなデザイン。なるほどいかにも娘好みであるわいなと妙に感心し、少しだけ誇らしく思った。

 以前にも娘のデザインした商品が店頭に並んだことがあるが、その時はモノが女性用の衛生商品であったため、妻に「引率」してもらってドラッグショップにわざわざ確認に行った。
 サクラの花を人の顔にデフォルメした季節限定商品だったと思う。幼きころ、命のないモノを擬人化して遊ぶのが得意だった、これまた娘らしいデザインワークであった。
 3人の子供のうち、デザインの分野を職業に選んだのは娘だけで、その意味では私の「跡を継いだ」ということになるのだろうか。
 娘が学生時代、専門の選択コースに別れるときに一度だけ、「建築をやる気はないか?」と問いかけたことがある。しかし、「ありません」と即答。興味がないとのことで、「あっ、ソーデスカ」と、私もそれ以上深追いしなかった。

 自分がまさにゼロから独学で築いたいまの技術を、たとえ子供とはいえ、強引に継がせる気は若いころから全くなかった。親は親、子は子である。私が25年かけて築いたいまの仕事の技術も人脈も、一代限りで消え去る定め。子供はそれぞれの好きな道を選んで、自由に歩いてゆけばよい。
 娘が選んだ道も決して強制したわけではなく、あくまで本人の意志である。そして、デザイナーとしてそれなりの位置にいまいるのは、本人の努力にほかならない。
 仮に多少の資質があったのだとしても、そのDNAは私が作ったものではなく、単に遠いご先祖様から脈々と受継いだもの。私のやったことは、妻を介してそれを伝えただけだ。「これはオレの血だ」などと、自慢する気はサラサラない。
 親が子に残せるものなど、微々たるもの。