正月休暇で帰省した息子から、左首にできた腫れ物を近々手術すると突然聞かされた。昨秋あたりから首に違和感を感じ、腫れているので病院に行くと、各種検査を重ねたすえ、良性の腫瘍だが除去しないと肥大化するとの診断結果。
当初は身元保証人の書類記入だけで済むはずが、1月中旬になって連絡があり、家族への直接説明と手術時の家族待機が必要だという。不可能であれば別の手段(おそらくは上司などの代理人)を考えるが都合はどうか?と尋ねてきた。
結婚していれば本来は妻の役目で、私の胃ガン手術でもそうだった。しかし、次男は未だ独身。身内は全て遠方在住で、時間のある私が行くのが妥当である。まだ元気で動けるし、会社関係の方にお願いするわけにもいかない。
真冬のため移動手段は早くて事故リスクの少ないJRに決め、切符は息子が手配してくれることになる。宿泊&滞在費は私の負担。
移動当日は前夜から激しい風雪が吹き荒れた。札幌駅までの移動は、風雪による運休や遅れが最も少なそうなバス〜地下鉄ルートを選択。列車の札幌発10:57に合わせ、9:25に家を出た。
幸いに積雪量はそれほど多くなく、バスは5分遅れ程度。地下鉄は平常運行で、10:30には札幌駅に着いた。
特急北斗10号で札幌を定刻に出発。「トクだ値30」という割引切符で、指定席でもかなり安く買えたらしい。
大きな遅れもなく、列車は順調に走る。苫小牧を過ぎたころから青空も広がってきた。ここで持参のカレーパンとサンドイッチで昼食をとる。飲み物は直前に妻が珈琲を小型魔法瓶に入れてくれた。
この魔法瓶が優秀で、入れて3時間経ってもまだ充分に温かい。
JRでの宿泊を伴う旅は、独立開業準備で東京から札幌へ移動して以来、実に40年ぶりのこと。
観光が目的の旅でないのは当時と同じで、無用な出費は極力避けたい。車内販売はすでに廃止され、食事や飲物は乗る前に準備しておく必要があった。
かって学生時代を過ごした街を中心に、懐かしい沿線風景が続く。函館までは3時間45分ほどかかるが、車内にはWi-Fiがなく、ネット閲覧で時間はつぶせない。
昨秋の入院時と同じく、持参のタブレットPCには予め無料の青空文庫電子本を21冊分入れてあった。
山本周五郎の「赤ひげ診療譚」「日本婦道記」を読んだり、持参の菓子と珈琲を楽しむなどするうち、あっという間に函館に着いた。
列車は3分しか遅れず、ホテルのチェックインには15分ほど早い。しばし待ち、15時に駅を出てネット予約しておいた駅前の「コンフォートホテル函館」に入った。
1泊朝食付の3日前早期割引料金は4,600円だったが、身分証明書と3回以上のワクチン接種証明書を提示すれば全国旅行支援の割引適用で20%安くなり、支払額は3,680円。(クレカでの前払い)
さらには「ほっかいどう応援クーポン」なるものが2,000円分もらえた。指定する店で飲食時に提示すると使えるという。
すでに入院している次男からは逐一メールが入っていた。入院直後に実施のコロナ抗原検査で陽性だった場合、手術は延期されることになっていたが、こちらはどうにかクリアした模様。
ホテルにチェックイン後、無事着いたことを連絡し、16時をメドに市電に乗って病院へ向かうことになる。
病院は五稜郭の近く。過去に何度かコロナのクラスターが起きたらしく、面会は基本的に禁止。
総合受付で事情を話し、その場で体温測定と顔写真を同時撮影する機械で特別面会許可証を発行してもらう。粘着シール式で、常に見やすい位置に貼っておく厳重なシステムだ。
指定された病棟の4階に移動し、談話室で息子と会う。ほどなくして診察室に招かれ、執刀する主治医から詳細な説明を受けた。
患部MRI画像を初めて見せられたが、左耳の下あたりに3センチほどの白い塊がある。神経の周りにできた脂肪系の腫瘍で、「神経鞘腫(しょうしゅ)」という耳慣れない病名。10万人に2.5人という稀な疾患で、位置が耳の直下にあるため、耳鼻咽喉科での手術となった。
息子と同年代の若い医師だったが、これまで10例ほどの執刀経験があるという。神経を傷めずに除去する関係で時間がかかり、全身麻酔で2時間半程度と言われた。私の胃ガン手術と比べ、格段に長い。
出血はそれほど多くないが、術後に感覚神経麻痺が多少残る可能性があるらしい。基本的には信頼してお任せするだけだ。30分ほど説明を受け、承諾書に署名して終了。 翌日の手術は午前中の2番目になるとのこと。11時には病院に来て不測の事態に備え、終了まで談話室で待機するよう求められた。
手術は午後になりそうとか、手術中は連絡可能な場所で待機など、事前に聞いていた内容とは多少異なるが、それがルールである。
再び市電で駅前のホテルへと戻り、持参したノートPCをWi-Fi接続。もらった地域クーポンの使える店をネットで物色する。
印刷されたQRコードをスマホで読み取り、電子クーポンに変換して提示する店が大半だったが、あいにくスマホは持っていない。
印刷した紙の提示だけで使える数少ない店を探すうち、ホテル近くの函館朝市ひろば内にある「海鮮料理と釜めし〜あらき」という店が目についた。
好物の釜めしが各種そろっている。寿司はいつでも食べられるが、釜めしは簡単にはありつけない。行く前に電話をし、紙のクーポンが使えることを確かめた。
18:15に店に着く。入口にはガラス張りの生簀があり、生きたカニや貝などの海産物が通りから見られる本格趣向だった。
客が誰もいないガラ空きのカウンター席に案内され、ネットで調べておいた2,200円のホタテ釜めしを注文。一人で飲んでもつまらないので、アルコールはナシ。
20分ほどで出来上がり、さっそく食べる。小粒だが、ホタテが10個以上も入っていて絶品。ご飯に特別な隠し味が入っているようで、これまで食べたどの釜めしよりも美味しく感じた。価格は高めだが、それだけの価値はある。
充分に堪能し、19:10ころに会計を済ませる。クーポン分を超えた200円だけを現金で支払った。
その足で駅前に行き、オブジェに彩られたイルミネーションを観る。札幌よりは小規模だが、美しさでは負けていない。
明日の移動に備え、駅前のローソンで交通系のICカード「キタカ」に千円分チャージする。函館市電でキタカが使えることは調べて知っていたが、現金をチャージする機械が駅のどこにも見当たらない。
市電利用者の大半はICカードで、整理券や小銭が不要でタッチだけで事足りるICカードは便利だった。ホテルのネットで調べて、大手コンビニならどこでもチャージ可能と知った。
ホテルに戻り、備え付けの電気ポットで湯を沸かし、持参のノンカフェ珈琲を入れて飲む。
23時くらいまで無料のBSテレビで映画やクイズを観て時間をつぶし、シャワーを浴びてからベットにもぐりこんだ。(後編に続く)