雑誌以外の本を週に1冊ペースで読むが、多くは創作(小説)。評論や実用本、ノンフィクションも悪くないが、どっぷり浸れるのは、どこかの誰かが作り上げた虚構の世界なのだった。
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「旅する練習」 乗代雄介(2020年作品)
作者2度目の芥川賞候補作で、12歳のサッカー少女と作家の叔父が我孫子から利根川沿いの土手道を、アントラーズの本拠地がある鹿嶋市まで歩いて向かうという小説である。
私自身が少年少女サッカーの指導に9年間関わったこともあり、以前から読んでみたかったが、あいにく市図書館には数冊の在庫しかなく、多くの予約数で埋まっていた。文庫版が出たのを機に、久しぶりに街の書店で購入することにした。
旅の途中で女子大生が加わるなどし、紀行文に似た切り口の展開。少女のサッカー、叔父の創作作業、卒業間近な女子大生の生き方、三者三様の「旅」の様子が、川沿いの風景と併行して語られる。
とても面白く読めたが、発表がコロナ禍の盛りということもあって、その影響が色濃く表れているように感じた。芥川賞の選評も評価が分かれていて、受賞は逃している。
気になってデビュー作の「十七八より」も読んでみたが、一筋縄ではいかない実験的作風だった。文学的にいろいろ試そうとする創作意欲を感じる。「二十四五」で5度目の芥川賞候補にノミネートされているが、はたして着地点はありやなしや?
「ユニット」 佐々木譲(2003年作品)
妻が古本市で手に入れ、「面白い」と勧めてきた。氏の本はかなり読んでいて、本を原作としたテレビドラマも数多く観ている。構えのない文体が読みやすく、年齢的にも親近感を感じる。
札幌育ちで中標津町在住ということで、北海道を舞台にした作品が多い。この作品も旭川、札幌、小樽、函館が舞台で、いずれも行ったことがある地域だった。1000枚ほどの長編ハードボイルド小説だが、ぐんぐん引き込まれて一気に読める。
前述の「旅する練習」はフランス映画的な不条理を感じさせるが、こちらはハラハラドキドキしつつも、読後感は爽やか。
テレビでもぜひ観たいものだと調べてみたら、なんと2006年にドラマ化されていて、主人公の一人である女性は、私の好きな若村麻由美が演じている。舞台は東京に置き換わっているが、いつか見届けたい。
「菜食主義者」 ハン・ガン(2007年作品)
2024年、アジア人女性初のノーベル文学賞を受賞した韓国人作家の代表作である。受賞を知ってすぐに札幌市図書館サイトにアクセスした。わずか3冊の在庫だったが、受賞直後とあって予約数は6名。ただちに予約し、1ヶ月足らずで順番は回ってきた。
(現在は250名を超す予約で埋まっている)
本作は世界23カ国で翻訳されているという。肉を拒否した若い女性が主人公で、3つの章が身内による別々の視点から描かれる。
「肉」「野菜」はある種のメタファー(暗喩)。始めから終わりまでヒリヒリする小説である。ノーベル賞に適う文体と構成。一読をお勧めする。