チーク材の寄木細工で、1枚確か450円前後だった。同期で入社した仲間からの贈り物だったが、値段を知っているのには理由がある。
代表の一人が「2,500円くらいの予算で何かプレゼントしたいので、好きなものを言って」と事前に声をかけてくれた。
欲しかったが高価で手がでなかったコースターがあり、それにして欲しい、とすぐに申し出たが、あいにく売っている場所が新宿の京王デパート。当時芝浦にあった職場からは、はるかに遠い。
「面倒だから、菊地さんが自分で買ってきてよ」と代表の女性は言う。しかし、そのコースターは6枚セットで、合計2,700円である。足りない分は自腹で、と思っていたら、あとで不足分の200円もちゃんとくれた。
大卒初任給が7万くらいの時代だったから、いまなら軽く1枚1,000円は超える高価なコースターだ。しかし、酷使にも耐え、1枚も欠けずにいまに至る。
自分への贈り物を自分で買う、というのも妙な話だが、「ホンモノ嗜好」「徹底したこだわり」といった暮しや生き方に対するキーワードは、すでにその時期から確かに息づいていたことになる。