2025年5月16日金曜日

前閉じパンツの怪

 3月上旬に金婚旅行前の準備をしていて、傷みの進んだ下着(パンツ)を発見し、この際買い替えようとディスカウント店に行った。
(ちなみに、高校を出てからパンツはすべて自分で選んでいて、結婚後もそれは続いている)
 選ぶのは無彩色系で柄のないボクサーパンツ。高校までは母親が買ってくるブリーフを受け入れていたが、浪人生活中に新聞配達のバイトを始め、自分の稼いだ金で買うようになった。

 ボクサーパンツを買うのは久しぶりのこと。品質タグに記した日付を見ると、およそ5年ぶりである。傷みが進むはずだ。
 売り場で見繕うと、2枚で700円弱の品がある。物価高騰の折、意外にも以前とたいして変わっていない。カゴに入れてみたが、どうも様子がおかしい。1枚400円ほどの品も並んでいて、色も生地もよく似ている。違いがよくわからないのだ。


 めったに買うものでなく、慎重に商品タグを調べると、「前閉じ」なる不可思議な説明書きがある。(「前閉じ」って…?)
 不審に思いつつ、さらに調査を進める。すると、驚くべき事実が判明した。説明文通り、用を足す際のスリット穴が存在しない。つまりは、女性用パンティと同じ造りなのだ。前スリットがなければパーツは減って縫製も簡単になる。他に比べて安いカラクリはこれだ。
 迷ったが、2枚買うのはやめて、400円の一般タイプ(「前開き」と呼ぶらしい)を1枚だけ買った。
 旅から戻って再度売り場に行ってみると、価格が一気に上がっていて、前開きタイプに1枚500円以下の品は見当たらない。更新時期のパンツは他にもあり、やむなく千円で前開きタイプを2枚買った。

「前閉じ」タイプを仮に買ったとすると、価格は安いが用を足す際はズボンとパンツを下げ、大便器に座ることを強いられる。最近よく耳にする「座りション」という代物だ。
 主に既婚の若い世代にジワジワ浸透しているらしく、先日は新聞で実証試験の特集を組んでいたほど。
 立って洋便器に用を足すと、高い位置からの勢いで跳ね上がり、壁や床を汚して不衛生、というのが理屈らしい。
 若い世代の妻側が、夫に厳しく要求している様子が目に浮かぶ。前閉じパンツのニーズを支えている背景は、この「座りション」の波及に間違いない。
 実は自宅で仕事をするようになってから、トイレ掃除はずっと私の家事分担。寝る前に用を足し、水を流した直後に掃除ブラシを使って便器内を洗う。毎日欠かさずやると汚れはほとんど目立たず、25年経ってもピカピカ光っている。トイレ洗剤もあるが、めったに使わない。
 自分で掃除をやると便器内外の汚れには敏感で、たまに汚すのは床。すぐにトイレットペーパーで拭き取り、問題があれば雑巾でさらに水拭きする。
 新聞特集にあった周辺壁への盛大な跳ね返りは、我が家の場合はない。用を足す際に便器をまたぐようにし、落下高さを最短にしてトラップ水をめがければ、跳ね返りはほとんどない。トラップ水を外して陶器に直接ぶつかると、跳ね返りは激しい。要は使う側の心がけ。

「座りション」を受け入れている方々は、会社や公共空間でも大便器を選んで座っているのだろうか?時間もかかって、煩わしくはないのだろうか?
 前閉じパンツの発見に端を発し、生きにくい世の中になったものだと、いろいろ考えさせられた。